第17話 いつか来た教会
しばらくして落ち着いたことで、水菜はポールを家へ送っていくことにした。まだ街に慣れていないだろうというのもあるので、案内がてらである。
ついでにいうと、ポールの父親であるクリスに会いたかったからだ。
「えっと、ポールくんの家はどこかしらね」
学校を出たところで、水菜はポールに家の場所を確認する。
「……教会だよ」
黙っていたポールが家の特徴を答えた。
「教会……。もしかして、この間見かけた廃教会かしらね。人が住んでなさそうなのに手入れだけはされてたみたいだけど」
「それだと思う。あそこは退魔師協会の管轄だからな。おかげで荷物を運びこむだけですぐに生活はできるようになったよ」
さっきまでの勢いはどこへやら。ポールはすっかりおとなしく水菜と一緒に歩いていた。
水菜がクリスに会わせろとしつこく迫ったのも大きいだろう。その勢いに負けた形である。
(なんなんだよ、こいつは。恐ろしいまでの妖気を放っていたと思ったら、完全に人間の女みたいな振る舞いを始めやがって……。わけが分からねえぜ)
期待を胸に緊張した様子の水菜を見ながら、ポールは心の中でそんな事を思っていた。
「ほら、着いたみたいだぞ」
「あっ、やっぱり最近見た教会じゃないの」
水菜の目の前には、クリスマスの頃にちらりと見かけた教会が建っていた。
建物の中を見てみると、確かに誰かが住んでいるようで部屋の中に明かりが見えている。
教会に近付こうとする水菜だったが、ポールが止める。
「悪い、お袋がいると思うんでちょっと待っててくれ。俺以上に妖魔に対して容赦がないからな」
「ああ、そういうことなら待つわね」
境界の敷地の前で待ちぼうける水菜。しばらくするとポールが戻ってきた。
「えっと……」
水菜を呼ぼうとして口ごもるポールである。
「宮森水菜よ」
「悪い。宮森、待たせたな。入ってきてくれ」
どうやら名前が分からなかったらしい。そういえばちゃんと名乗っていなかったのだ。
両親への説明が終わったらしいので、水菜を教会の中へと招き入れる。
「お邪魔します」
水菜がそう言って教会の中へと足を踏み入れた瞬間だった。
「せいっ!」
大きな声とともに強烈な蹴りが降ってきた。
「ちょっ!」
思わず叫ぶ水菜だったが、間一髪その強烈な蹴りを躱す。
「おい、お袋何をしてるんだよ。クラスメイトだって説明しただろうが」
「ふん、妖魔は妖魔だから、どのくらいの実力か見ておきたかったのさ」
「だからって、殺す気満々の蹴りを出す奴がいるのかよ。見た目人間だぞ」
母親に本気で怒鳴るポールである。
「しかしまぁ、あたしの蹴りを躱すとはやるね。歓迎するよ」
「お袋!」
まったく謝罪する気ゼロのポールの母親である。
「あたしは、マイア・クロスティックス。こいつの母親だ。歓迎するよ、強い妖魔ちゃん」
あんな事をした直後だというのに、水菜に対してウィンクをするマイアである。これには水菜は言葉が出ないし、ポールは頭が痛くなってきていた。まるでこの親にしてこの子ありといった感じなのだ。
なんかもう、怒る気もなくなってきた水菜である。ため息を一つ吐くと、ひとまず自己紹介をする。
「私はポールくんのクラスメイトで宮森水菜っていいます。宮森神社の神主の娘で、私自身も退魔師をしています」
「へえ、妖魔のくせに退魔師をねぇ。本当に面白い子だ」
興味深く水菜を見つめるマイアである。
「お袋、とりあえずこいつと親父を会わせたいんだ。そのために今日はこいつを連れてきたんだからな」
「なんだ、ガールフレンドを連れてきたわけじゃないんだな」
「ガッ……。な、何をいうんだよ、いきなり」
マイアにからかわれて真っ赤になって文句を言うポール。
「ははははっ。いやなに、うちの息子はこういう子が好みなのかと思っただけさ、はははははっ」
「お袋~……」
悪気なく笑うマイアに、本気で怒り始めるポールである。その様子を、水菜はなんといったらいいのか分からない表情で見つめていた。
「クリスなら奥の部屋で横になっているよ。歩くのは困難だが、それ以外はなんとかなるような状態なんでね」
「そんなに、足の状態は悪いんですか?」
「そりゃねぇ、おおみみずとやり合ったんだからね。生きてるだけで不思議ってもんだよ」
「そうです……よね」
マイアからクリスの状態を聞いた水菜は、状態の悪さに思わず落ち込んでしまう。この様子を見ていたマイアはつい首を傾げてしまう。
「よくは分からないが、会いたいのなら会っていくといいよ。ポール案内してやってくれ」
「言われなくても」
マイアはそう言いながら台所へと移動していく。
水菜はポールに連れられて、教会の奥へと歩いていった。
「うう、どんな顔をして会えばいいのかしら」
いざクリスに会うとなると、急に緊張してくる水菜。
「心配いらないと思うよ。あんな状態とはいえ、恨みみたいな事は一度も言ったことはないからな。俺とお袋が勝手に恨んでるだけだ」
「そ、そうなのね」
ポールに言われて戸惑う水菜。
「ええい、じれったいな」
ここに来ていきなり尻込みにする水菜にしびれを切らし、水菜の手を引っ張りながら扉を開けて中へと入るポールなのであった。
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