第16話 因縁
学校の中で対峙する水菜とポール。
「その口ぶりからすると、私のことは最初から分かっていたみたいね」
「当たり前だ。俺は退魔師だからな」
ポールが聖水剣を振り回しながら水菜に襲い掛かってくる。水菜はその攻撃を余裕で躱していく。
「ちっ、ちょこまかと」
「うるさいわね。人間の体とはいえ、その攻撃を受けたら怪我しちゃうでしょ」
ポールが文句を言うものだから、水菜も口げんかで応酬する。
学校の廊下という狭い場所であるにもかかわらず、ポールの聖水剣を巧みに避ける水菜。ポールはその水菜を目がけて聖水剣を振り回す。
「ああ、もう。そんなに振り回したら校舎にも当たっちゃうでしょうに」
水菜は攻撃を躱しながら、お札を取り出して投げる。お札が貼りついた場所は、周囲を含めて淡い青色に光っている。
「結界か。お前も退魔師の力を持っているんだな。うぜぇ……」
「あったり前でしょ。私の家は神社。退魔師でもある宮森家の生まれよ。能力を持ってなくてどうするっていうのよ」
斬りかかってきたポールの聖水剣をお札で受け止める水菜。しっかりと力を込めてやれば、どうにか受け止められるようだ。
自分の聖水剣を受け止められ、ポールは驚きを隠しきれなかった。これは水菜の方も同じで、とある人物の聖水剣のイメージがあったために、受け止められるとは思っていなかったようだ。
(聖水剣ってなんでも斬れるわけじゃなかったのね。同じ退魔師の力だからなのか、ポールくんが未熟だからなのかは分からないけど……)
お札で作った盾で聖水剣を防いで持ちこたえる水菜。
「たあっ!」
「くっ!」
強引に押し返すと、ポールはその勢いに跳ね返されてしまう。
「ば、バカな。俺の聖水剣で斬れないなんて……」
かなり衝撃を受けている模様。
「形こそできているけれど、それを扱うだけの技量が不足しているようね。だったら……」
水菜は触手を展開させる。全部で十本ある触手が、水菜の背中でうごめいている。
「悪いけれど、分からせるために全力でいかせてもらうわ。私は死にたくないの。人間の女性として、人生をただ全うしたいだけなのよ」
水菜はそう言い放つと、お札に力を込めて触手にも防御をまとわせる。
「実質1対11。勝ち目はあるかしらね」
「ひ、卑怯だぞ!」
「人の手を掴んで不意打ちしといて、出てくる言葉がそれなの?」
ポールの反応に思わずツッコミを入れる水菜。間髪入れずにポールへと攻撃を仕掛ける。
こうなってしまえばポールに勝ち目はない。触手と水菜本体の連続攻撃に耐え切れずに、手から聖水剣を離してしまう。
「しまった!」
すかさず拾いに行こうとするポール。水菜はポールを追いかけることなく、聖水剣の持ち手の部分である小瓶をしっかりと見つめてこう言い放った。
”壊れろ”
その瞬間、聖水の入った小瓶が粉々に砕け散る。聖水剣は形を保てなくなり、その場にただの水として崩れ落ちた。
「ふぅ、これで大丈夫かな」
額に腕をこすりつける水菜である。
「嘘だろ。今の能力って……」
砕けた聖水の小瓶を眺めながら、ポールが呟いている。
「驚いたかしら。私の妖魔としての能力よ。破壊の力と触手、これが私の能力よ。まぁもっとも、触手はもっと数は多かったんだけどね」
腕を組み、頬に人差し指を当てながら説明をする水菜。その言葉を背に、ポールは小さく震えている。
「ど、どうしたのよ、ポールくん」
黙り込んだまま震える姿に、水菜は心配になって声を掛ける。そして、近付いて手を置こうとすると、急にポールが振り向いて水菜を睨み付けていた。その顔をよく見ると、瞳には涙が浮かんでいる。
「そうか。お前が親父をあんな風にしやがったのか。お前が妖魔『おおみみず』なんだな?!」
「へっ、どういうことかしら……」
急なポールの発言に、水菜は戸惑いを隠しきれない。唐突に自分の前世の名前が出てきて、思わず驚いて一歩引いてしまう。
「俺の親父の名前は『クリス・クロスティックス』。この名前、忘れたとは言わせないぞ」
「あっ、クロスティックスってどこかで聞いたことがあると思ったら、そういう……」
名前を聞いてはっとする水菜。
そう、先日久しぶりに見たおおみみずの頃の夢。その中で戦っていた退魔師の男性こそ、ポールが話すクリス・クロスティックスなのだ。
「思い出したわ。よかった、生きていたのね」
「はっ、何を言っているんだ。親父はおおみみずと戦った時の傷が元で、俺が生まれてからずっと車椅子生活なんだよ。おおみみずの討伐の賞金でどうにか生活してるが、親父の痛々しい姿をもう見てられないんだ」
ポールの叫ぶ姿に、水菜は言葉を失う。どう言葉をかけていいのか分からなかった。
「お前が……、おおみみずがすべてを壊したんだよ……」
大声で泣きながらその場に崩れ落ちるポール。水菜も何も言えずにその場に立ち尽くす。
「そっか。クリスさん、ケガ治ってないのか……」
かつて死闘を演じた相手の現状を知って、もやもやした気持ちになる水菜。
今はただ、ポールの気持ちが落ち着くのを静かに待ち続けることしかできなかったのだった。
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