第15話 ワイルドな転校生

 小学6年生の三学期。小学校の卒業を控えたこの時期に、水菜たちの学校に転校性がやって来た。

 金髪碧眼のワイルドそうな男子に、男女それぞれに興味津々である。

「まぁ、かっこいいとは思うが、あたしの趣味じゃないね」

「私はなんか苦手です」

 水菜の友人二人はこの反応だった。

 しかし、二人が揃ってべったりなのはちょっとどうにかしてもらいたいと思う水菜なのである。

 寧子とゆうの相手に困りながらも、水菜はふと視線を感じる。

(なんだろうかな、この不快な視線は)

 無視しようと思ったものの、水菜はどうしても無視できずに視線を感じる方向へと顔を向ける。そこには今日転校してきたポールの姿があった。

 そのポールの表情をよく見ると、どうみても不機嫌そうな表情だ。見つめているというよりも睨んでいるというのが正解なくらいだった。

(転校生かぁ……。とりあえず、あまりに無礼だから無視ね、無視)

 始業式が始まるということもあって、水菜はとりあえず気にしない相手にしないという姿勢を取り続けた。


 無事に始業式を終えて下校となる水菜たち。

 いつも通りに寧子とゆうと一緒に帰ろうとする水菜の前に、ポールがやって来る。

「おい、そこのピンク髪、ちょっといいか?」

「何かしら、ポールくん」

 友だちと帰ろうとしていたところを呼び止められて、水菜は露骨に不機嫌な反応を示す。その視線に、ポールは思わず身を引いてしまう。

「あ、ああ。ちょっと聞きたい事があるんだ。いいかな」

「なんで私を指名するのかしら。他にもいるでしょう?」

 嫌な顔をしながら睨みつける水菜。慌てたポールは理由を話し始める。

「なんでお前かっていうと、先生から聞かされたんだよ」

「どういう事をよ」

 水菜はちょっと怒った感じに反応している。

「お前はこの街の有名な神社が家らしいからな。何かあればお前に聞けばいいって言われたんだよ」

「なによ、それ……」

 ポールの言い分に思わず呆れてしまう水菜である。どうやら、面倒なあたりを全部水菜に押し付けたようだった。

「家が神社だからって、何を考えているのかしら、先生は……」

 大きくため息をついて頭を抱える水菜だった。

 ただ、水菜は同時にものすごく気になる事があった。

 それは何かといったら、ポールの目だった。

(ずいぶんと私を睨んでくるわね。まったく、気分がよくないけれど転校生だしなぁ……)

 正直面倒としか思わなかった水菜だが、相手は転校生がゆえにやむなく対応することにした。

「二人とも悪いわね。どうも相手しないといけないみたいだから、先に帰ってて」

「まぁしゃーねえな。それじゃまた明日な」

「また明日ね、水菜ちゃん」

 手を振って寧子とゆうの二人と別れる水菜。改めてポールに向き合う。

「で、まずは学校の中でも案内すればいいのかしらね」

「ああ、よろしく頼む」

 ポールを連れて学校の中を案内し始める水菜。残りが3か月を切っているとはいえ、やるからにはちゃんと対応するのである。

 ひと通り案内を終えた水菜は、ポールに確認を取る。理解してなければ迷子になりかねないし、頼まれてやるからにはきっちりやり遂げるのが水菜なのである。

 そして、下校するために下足場に向かおうとする水菜だったが、そこでポールが水菜の腕をしっかりと握ってきた。

「ちょっと、何をするのよ」

 少々ばかり強い力で握ってきたものだから、さすがに水菜は怒っているようだ。

 だが、ポールは黙ったまま下を向いている。

 今日は始業式の日でもうほとんどの児童は下校してしまっている。水菜が最後に案内した場所は、人気のない場所だった事もあって、周りには誰もいなかった。

「やはりか……」

 ぽつりと呟くポール。

「ちょっと、何を言っているのよ。痛いから手を離してちょうだい」

 わけが分からないといった感じで、少女らしく反応する水菜。必死に振りほどこうとするが、どういうわけかポールの手は水菜の腕をしっかりと握ったままである。

(これは……まさか)

 水菜が気付いた時には遅かった。


 ビュン!


 凄まじい風切音が響き渡る。

「そうはいきますか!」

 腕をようやく振りほどいて飛び退いて躱す水菜。

「ちっ、躱されたか……」

「まったく、危ないじゃないのよ。そんなものを学校振り回さないで」

 水菜は着地してポールを睨み付けながら叫ぶ。

 視線を向けるポールの右手には、なにやら剣のようなものが握られている。

(あれは、聖水剣ね。クロスティックスとは名乗っていたけれど、まさか……ね)

 見覚えのある武器に、水菜はたらりと冷や汗を流す。

「その背中に見えるもの……。やっぱりお前は妖魔だったか」

 ポールは水菜の後ろに見え隠れする触手を指して指摘する。

「……だとしたら、どうするというのかしらね」

 しゃがんで着地した体勢のまま、水菜はポールに問い掛ける。すると、ポールははっきりと答えてくる。

「決まっている。妖魔は全部滅ぼすのみだ」

 ポールは手に持っている聖水剣を水菜に真っすぐ向ける。

 新年の新学期早々、まったくもってとんでもない事態となった水菜なのであった。

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