第14話 三学期が始まった
三が日も無事に終わり、いよいよ小学校最後の三学期が始まる。
開始を翌日に備えた水菜は、夕食の片づけをしながら肩を掴んでぐるぐると回している。
「まったく、妖魔の襲撃こそなかったものの、今年もなかなかに濃い新年になったわね」
水菜は愚痴を言いながら食器を洗っている。これだけの人数のいる家ながらに食器洗浄機を導入していないので、全部手で洗っていく。とはいえ、水菜には触手があるので、一人でも結構頑張れるのだ。
普段なら同居している職員たちがやる仕事なのだが、年が明けたばかりの神社はまだまだ忙しい。小正月を過ぎるまでは初詣は絶えないし、来月の節分に向けた申し込みなんかもあって結構忙しいのだ。そうなれば、学生の身で働けない水菜がやらざるを得なかった。
「まったく、兄さんはいいわよね。将来的には神主だから継ぐためにいろいろと修行してるから。おかげで家事は全部私の手に降りかかってくるわ」
「水菜ちゃん、そう言わないの。家業を継ぐための修行って大変なんですからね」
「あっ、珠姫。ということは……」
「ああ、俺も居るぞ」
愚痴る水菜に口を挟む珠姫。その陰からは狐魔がひょっこりと顔を見せていた。
「しかし、やっぱりお前も妖魔だったんだな、その触手……」
狐魔に指摘された水菜は笑っている。
「まぁね。みんなには符術だっていってごまかしているけど、一応前世はそれなりに上位の妖魔だったわ」
素直に話す水菜である。自分が育てると言った以上、ある程度は明かしておくべきだと考えたからである。
その瞬間、狐魔は水菜に土下座をしている。
「そ、そんな上位の妖魔だったなんてすみませんでした。俺はしっかり修行して水菜みたいな立派な妖魔になってみせます」
一人称こそ『俺』のままではあるが、水菜に対する態度が急変している狐魔である。さすがにこれには水菜も珠姫も困惑するばかりである。
「ま、まあ、素直にそういってもらえるのは嬉しいわね。ここにいる間は珠姫、面倒を見てあげてね」
「わ、分かりました。水菜ちゃん学校ですものね、任せて下さい」
戸惑いながらも、珠姫は水菜の言葉に頷いていた。
そして、ようやく迎えた6年生の三学期の始業の日。
水菜の服装はかなり重装備だ。しかし、それでも膝上丈スカートにサイハイソックスは外せないようである。妙なこだわりを持っているようだ。
髪の毛はいつもの通り、ポニーテールをお団子にしている。最後に眼鏡を掛け直して、投稿する準備は万端である。
「それじゃ、今日から学校再開なので行ってくるね」
「ええ、行ってらっしゃい、水菜ちゃん」
水菜は珠姫と狐魔、それと母親に見送られて学校へと向かった。
いつものように石段をぴょんぴょんと飛び降りていく水菜。石段の下にはいつものように寧子とゆうが待ち構えている。
「おはよう、寧子、ゆう」
「おーっす、水菜」
「おはよう、水菜ちゃん」
挨拶を交わすと、水菜は階段を降り終わって見事に着地を決めていた。
「二人とも、年末年始のお手伝いありがとうね」
「まあいいってことよ」
「そうそう、お年玉をもらったのがなんだか悪い気がしてくるわ」
「あははは」
話をしながら集団登校の集合場所へと向かう水菜たちである。
新年になってから初めて会う面々なので、当然のように新年の挨拶が交わされる。
「うう、やっぱり冬は寒いよな。まったく、そんな服で寒くないのかよ」
登校しながら、寧子が水菜に疑問をぶつけている。
それというのも、寧子はジーパンで、ゆうはスカートではあるもののタイツを履いている。水菜だけは素足が見えているのだ。
「普段が巫女服だからね。あれだといつも素足だから、なんていうか慣れちゃったわ」
「寒さって、慣れるものなのかよ……」
「いやでも慣れるわよ。朝4時半から境内の掃除なんだからね。今は正月期間でさらに30分早いけど」
「うげぇ……」
聞いているだけで鳥肌が立ってくる寧子である。
一番暖かそうな格好をしている寧子が震えているものだから、水菜とゆうはその姿に笑っていたのだった。
学校に到着すると、やがてホームルームが始まる。
始業式を前に、担任教師からクラスに向けて何か発言があるようだ。
「えっとですね。小学校生活残り3か月となったこの時期ですが、みなさんの元に新しい仲間がやって参りました」
時期的な事があって、担任はなんとも歯切れの悪い言い回しをしている。しかし、この小学校からはほぼ確実にみんな同じ中学校に進学するので、大した問題ではないはずである。
水菜はちょっと首を傾げていたが、担任に呼ばれて入ってきた少年の姿を見て、思わず寒気が走ってしまった。
教卓の隣に立った少年は金髪に碧眼という、どう見たところで分かりやすい外国人である。
「ポール・クロスティックスといいます。今日からこの学校で一緒に学ぶことになりました。よろしくお願いします」
丁寧な挨拶をしてきた転校生。その姿にクラスの中が大騒ぎになったのはいうまでもない事だった。
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