第18話 退魔師たちの昔話
「親父、客人だぞ」
ポールが扉を開けて中に入ると、金髪の男性がベッドの上で上半身を起こしていた。
「やぁ、おおみみず。久しぶりだね」
どうやら本を読んでいたらしく、ぱたりと閉じるとその顔を水菜の方へと向けてきた。
顔を見ると、水菜は思わず懐かしくなって瞳を潤ませ始めていた。
「よかったぁ……。無事だったんだ。転移させるところまでしか見てなかったから、本当に無事かどうか心配だったもの」
胸に手を当てて下を向く水菜。その状況にわけが分からないポールは、どう反応していいか分からなくて戸惑っている。
置いていかれているポールをよそに、クリスと水菜はじっと向かい合っている。
「まったく、姿が変わてしまったけれど、妖力の雰囲気は昔のままのようだね」
「はい。あの後、私は人間の魂に憑依したんですよ。木の葉を隠すなら森の中。退魔師の家の子どもなら隠せると思ったんですけれどね……」
「はははっ、君の妖力が強力すぎて体から漏れ出てしまっているよ。まったく最強という割にはなかなかに不器用なようだね」
「いやぁ、面目ないですよ。あはははは」
二人の会話にまったくついていけないポールは、部屋の入口で立ち尽くしている。
「ポール、そんなところで何をやってるんだ」
「お袋か」
客人へお茶と菓子を持ってきたマイアに邪魔だとばかりに注意されるポール。
「まったく、再会を喜ぶのはいいけれど、あたしたちにも分かるように事情を説明してくれないかい、クリス」
「ああ、そうだね。詳しくは話してなかったから、今から説明するとしようか」
マイアもポールもわけが分からないといった感じなので、クリスは笑いながら昔話を始めることにしたのだった。
長々とした話を終えて、マイアとポールはさすがに言葉がなかった。クリスの隣では水菜が照れた様子で立っていた。
「クリスったら、よくそんなリスクの高い依頼を受けたものだわね」
「まぁね。おおみみずの仲間だと名乗る妖魔たちから直接申し入れられた依頼だったからな、あれは」
思い出してため息を吐くクリスである。
「インキュバスとシープね。私が常日頃から愚痴を漏らしてたから、見るに耐えなくなったってところかしら」
「そんな事は言っていたよ。最強の妖魔という立場ゆえに、他の妖魔や退魔師たちの襲撃を受けすぎて疲れたと言ってたらしいじゃないか」
「あはははは、事実ですね」
当時の事を思い出して、平然として笑っている水菜。今となってはただの思い出に過ぎないようだ。
「でも、せっかく人間になったのに、昔と同じように妖魔や退魔師に襲われてるんで困ったものなんですけどね」
かと思えばため息を吐く水菜である。
「それはそうだ。未熟な私の息子ポールにまで正体を見破られているくらいなんだからね。君は自分の力というものをしっかりと把握した方がいいよ」
「はぁ……、そうですよね」
額に手を当てて首を左右に振る水菜なのであった。
「しかし、歩けなくなるくらいのけがをしてるというのに、本気でなかったとは……。高い賞金がかけられていたのも納得がいくな」
マイアは考え込みながら話をしている。
「当たり前よ。私が本気を出せばほぼ全部が一瞬で壊れて終わるわよ」
「そうだね。おおみみずの真骨頂はその破壊の力にあるからね」
両手を腰に当てて呆れたように言う水菜と、それを肯定して頷くクリス。マイアは信じられないといった表情で二人を見ている。
「私が最強の妖魔と言われている理由よ、その破壊の力っていうのは」
「俺の聖水剣を壊した力か」
「そそっ。ただ、あれは私が人間だから通じたようなものよ。多分おおみみずの時なら成功しなかった可能性はあるわ」
ポールの呟きに反応する水菜。どうやら、破壊の力というのも万能ではないらしい。
「私の破壊の力はあくまでも妖魔の力なのよ。退魔師の力とは対になるものだから、常に通じるとは限らないってわけなのよ」
水菜が説明していると、ポールは分からずに首を捻っているが、マイアは理解できたようだった。
「とはいえ、おおみみずには100本の触手があるから無効化できたとしても意味がないのだけどね」
「まぁね」
クリスが指摘すれば、水菜はドヤ顔を決めていた。
「だからこそ最強の妖魔と呼ばれて、数少ない特級妖魔に指定されていたのよ、えっへん」
威張り散らす水菜ではあるが、ポールたちは反応困っている。クリスが笑っているくらいだった。
「でも、人間になるにあたってずいぶんとこれでも弱体化したのよね。強すぎる妖力に体が耐え切れないと思ったから」
「そうだね。私との戦いでも触手は10本しか使っていなかったものな」
「あれ、バレてました?」
クリスの指摘に、思わず舌を出しながら笑う水菜である。こういう仕草は人間の少女といった感じだ。
「当たり前だ。そのくらいできなければ、トップの退魔師になんてなれやしないよ。冷静な判断と的確な状況把握、それに力があってこそというものだ」
ついつい昔話で盛り上がってしまう水菜とクリス。巻き込まれたマイアとポールはただただその話を聞かされ続けたのだった。
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