4話
――彼女は、生まれながらの女王だった。
ヴィクトワール・アマリリス・タイガーアイ。
この名は今日から新帝国の女帝の名として大陸全土に知らしめられる。
「女帝は議会で決めれば良いわ。世襲なんて腐敗を招くだけよ。よくご存知でしょう? そのとき一番強い女が冠を戴くのなら、誰も文句は言わないわ」
その言葉通りに、新たに開かれた女たちの議会。全会一致で帝冠をその頭に戴いたのは、この地を買い上げ、行き場を失っていた女たちをに拠り所を与えた虎の目の女王だった。
「お金じゃ解決できない? まさか! わたくしは全てをお金で解決したわ」
国土すら買い上げてね、と彼女は悪戯っぽく微笑んだ。
ヴィクトワールは領有権が曖昧で周辺国の小競り合いが絶えなかった北の地を丸ごと買い上げ、開拓により元の住処であったその地を追われた女角族を味方に引き込んだ。女角族は何より心強い空を駆ける女たちだった。
そして領土争いで疲弊した国々の経済を自分の財力で殴り付け、金の力と、新たな武力とで周辺国の全てを黙らせてその地を新たな帝国としたのである。
あの星見の宴での華々しい宣言は瞬く間に大陸中に広まったらしく、数多の職人を引き入れて国の体裁が整った頃、大量の女たちが帝国に逃れてきた。
彼女たちの多くは、自らを道具と扱う家や男から逃れてきた者たちだった。他に、女だからと助けを得られなかった者も、尊重を得られなかった者もいる。功績すら奪われた女もいた。
その全てをヴィクトワールは受け入れた。家を与え、正当な評価をして彼女たちが欲しかった「尊重」を存分に与えたのである。
こうして女たちの帝国は着々と人口を増やした。
勿論、建国したての柔い防御を狙った他国からの侵略もある。
しかし、ヴィクトワールの財力によって現代兵器と防具を手にした女角族は、最早森を追われた時とは別物だった。銀角金鳥は軽くて頑丈な防具を纏って空を駆け、青衣の女たちは火薬や弾丸の雨を降らせる。誰も敵わなかった。
娘の宣言を機に見切りをつけたタイガーアイ家が出ていったオブシディア王国は緩やかに衰退の一途を辿っている。
頑固なダイアモンドは別として、他の濡羽の一族も近年のオブシディアンに思うところがあったようで、黒が水に薄れるように静かに去っていったそうだ。
いずれ滅びるだろう、というのが南国に新たに居を構えたタイガーアイ家当主の考えだ。ヴィクトワールも勿論同じ考えである。
廃嫡され、追放されたイレールがどんな道を辿ったかなど興味もない。必要のない過去など振り返らない。目映い未来を見据えることにいっぱいだからだ。
そしてあの宣言の日から丁度一年後。
「わたくしの民たち、今日という日を忘れないで」
女角族の秘伝の技で染めた鮮やかな青のドレスを纏い、技を秘めてきた女職人たちが存分に腕を振るった金の装飾品で身を飾ったヴィクトワールが帝宮の前の広場の壇上で告げた。
「わたくしたちは、女だからと侮られてきた。女だからと己の才覚を否定されてきた。女だからと功績を奪われてきた」
背を流れ落ちる豊かな金の髪は、陽光を反射して太陽そのもののように輝く。
「そんな時代は今日で終わり」
歓喜の叫びを上げる女たちを優しく眺める瞳は、鮮烈に勝ち気な
「これからは――女の時代よ!!」
そう宣言して、彼女は自らの手で帝冠を頭に戴いた。誰もが彼女に夢を見て、新しい時代の幕開けを感じて、ひたすら興奮のまま叫んでいた。
ヴィクトワールの戴冠。
押し込められていた女たちを解放し、新たな時代を打ち立てた虎の目の女帝の記念すべきその日は、その後の歴史の中でも色褪せることなく輝き続けている。
ヴィクトワールの戴冠 ふとんねこ @Futon-Neko
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます