幽霊ラジオの影 / 墨田拓也 作

名古屋市立大学文藝部

幽霊ラジオの影 / 墨田拓也 作

 昭和六十三年の終わりもそろそろ近づいてきた十二月の昼下がり、襲い来る眠気に抗いながら数学教師の唱える呪文を手元のノートに書き写していく。石油ストーブがけられ、温かくなった上に酸素の薄い教室内は絶妙な眠気を誘う。授業終了の合図とともに頭を振って、前方に目を向けると見慣れない光景が目に入る。斜め前の席の佐伯宗助さえきそうすけが顎を手の上に乗せ、夢の世界へと旅立っている。

 佐伯宗助、俺の友人であり、中学生にしてはある上背と長い手足から一見すると針金細工のような印象を人に与えるこの男は、学年でも三本の指に入る秀才である。まあ、授業態度は至極しごく真面目とは言え、その実態は何の役に立つのかも分からないような益体やくたいもない知識を収集しては悦に入る変人であり、授業以外で学校の勉強をしていては趣味に割く時間が減ると言い放つような奴であるので、これを優等生と呼んでいいのかはいささか疑問符がつくのであるが。

 ともあれ、そんなような奴であるので宗助が授業中に寝ているというのは滅多にない。明日はひょっとしたら槍でも降るかもしれないな、などと考えつつ未だ夢の中にいる宗助の席に向かい、声をかけると同時についている腕を引いてやる。支えを失いがくりと大きく首を揺らした後、目を覚ました宗助があたりを少し見回した後に、僕の方をにらみつける。

「……いきなりひどいじゃないか、賢治けんじ君」

 手荒な起こし方をしたせいか、目はトロンとしており声にも一切の覇気がない。

「授業が終わったのに無防備に寝てる方が悪い。それにしてもどうした、お前が授業中に寝るなんて」

「いやあ、ちょっとね。最近塹壕ざんごうラジオについて調べたから自分でも試しに作ってみようと思ったんだけれど」

「塹壕ラジオ? なんだいその物騒な名前の物は。少なくとも俺の知る限りでは、塹壕という言葉とラジオという言葉は結び付かないんだが」

「そうかい? 無線技術なんてものはむしろ戦争と真っ先に結び付くものだと思うけれど。それはさておき、まあ戦場でも作れるようなちゃちなラジオさ、教育番組の工作のおじさん位の腕があれば作れるだろうね」

 そう言って宗助は、カバンから弁当箱ほどの大きさの物体を机の上に置いた。それは木の板の上にコイル、カミソリの刃、安全ピンと鉛筆の芯を組み合わせて固定して作られている。

「一応、うっすらラジオ放送が入るところまでは出来たんだけど、変なノイズも拾っちゃってね、それの対応に四苦八苦しながら試行錯誤してたら日をまたいじゃってすっかり寝不足さあ」

 冗談めかして話す宗助を横目に、机の上に置かれたラジオを手に取り眺めてみる。

「それはそれは、お疲れ様。しっかしこんなちゃちい構造でもちゃんとラジオ放送が入るもんなんだな」

「それはまあ、やってることはゲルマニウムラジオと変わらないからねえ。作り方さえ間違えなければ動きはするさ。だけど結局あの妙なノイズは何だったのやら……」

「いや、ゲルマニウムラジオと同じだとだけ言われても、何が何やらさっぱり分からんが」

 宗助は全くしょうがのないやつだと言わんばかりの目でこちらを見る。この野郎、いつかしばき倒してやろうか。

「電波から音声信号を取り出すのに、ゲルマニウムのダイオードを使うようなラジオが昔あったんだよ。今回作ったのはそれのダイオードの部分をカミソリの刃で代用したやつなのさ」

「ああ、そうかい。そういや、さっきから妙だ妙だと言うが、何がそんなに変だったんだ? ただのホワイトノイズじゃないのか」

「いやあ、その時は流行の歌が入ってたはずなんだけど、どうもとぎれとぎれの何かの音声のような感じなのが入ってきてね」

「とぎれとぎれの音声ねえ…… ひょっとしたら心霊現象だったりしてな」

 冗談めかしてそう言うと、宗助はあきれたように肩をすくめる。

「そうだったら、こんな真冬じゃなくて夏に出てほしいものだよ」

 今にして思えば、俺たちはこの会話をもっと気に留めておくべきだったのかもしれない。しかし、この時にはそんなことは知る由もないのであった。


 そんな会話を交わしてから数日後、俺は宗助を探して校舎中をさまよい歩いていた。

「見つからないな。あいつならこの辺で本でも読んでると思ったんだけど」

 そう独り言ちながらさらに校舎の奥、人気ひとけのない方に進んでいく。この場所は学校の中でも敷地の端であり、すぐ横に町の中央に位置する山が有る。そのため、昼休みだと言うのに日が差さず、ただでさえ寒いこのボロ校舎の中でもいっとう冷え込んでいる。手をこすり合わせて温めつつ、あまり長居はしたくないが、などと考えながら進んでいると、案の定宗助の奴は明かりも点いていないような校舎の隅で本を読んでいた。

「おお、居た居た。おおい、宗助」

 声をかけると宗助は、読んでいた本から顔を上げ不機嫌そうにこちらを見る。

「なんだい、一体」

「なに、達夫たつおっているだろ、あの自称情報通の」

「ああ、うちのクラスの」

「あいつからちょっと面白い話を聞いてな。お前にも教えてやろうと思って」

「……ほう、面白い話」

 宗助は読んでいた本にしおりを挟んで閉じ、足元に置く。その顔からは、わざわざ読書を中断してまで聞かせたんだから面白くなかったら分かってるだろうね? という内心がありありと読み取れる。

「でも、情報元が達夫君かい」

「なんだ、何か文句でも?」

「いや彼、顔は広いけども、拾ってくる話の大半そこらのおばちゃんのいどばたいどばた会議レベルの嘘っぱちじゃないか……」

「まあそれはそもそもあいつの話の集め方が、まんまおばちゃんの井戸端会議と同じだからしゃあないだろ。俺も達夫に聞くまで知らなかったんだがな、今学校で幽霊騒ぎのうわさが流行ってるらしいぞ」

 宗助がスッと目を細める。

「幽霊騒ぎぃ? そんな物のためにわざわざ」

「まあまあ、そう焦んな。別に俺だってただの幽霊騒ぎのうわさなら、お前に話そうなんて思やしないさ。重要なのはうわさの内容だ。いわく早朝に何もしていないのにテレビの電源が入ったり、ラジオから知らない人の声が聞こえたりするんだとよ」

 宗助が細めていた目を見開く。やっぱり、食いついてくると思ったんだ。

「ちょっと待った、ラジオから知らない人の声が? それって――」

「そう、お前がこのあいだ言ってた謎のノイズとやらに似てないか? もしかしたらなにか関係があるんじゃないかと思ってな」

 本を読んでいた時の姿勢のままであった宗助がこちらへと向き直り、ずれていた眼鏡を掛けなおす。

「確かに、この手の話は幽霊騒ぎの定番とはいえ、偶然の一致で片づけるには少々状況が似通い過ぎているような気もするね」

「だろう?」

「賢治君。そのうわさ、達夫君から聞いたといったね? 詳細は分かるかい?」

「…………」

 黙ったまま、頭を掻きつつ宗助から目をそらす。

「賢治君、まさか……」

「いや、すまん、そのまさかだ。達夫の奴からはざっくりとした話しか聞いてなかったからな、今詳細を話すのはちょっと厳しい」

 俺がそう言って両手を上げると、宗助はしばらくこちらをじとっとした目で見た後、息を吐いた。

「はあ、それじゃあ今日はもうしょうがないか。賢治君、達夫君とかその辺からうわさの詳細を聞いておいてもらえないかい?」

「はいよ、了解。俺も気になるところではあるし、明日までにはどうにか聞いておくよ」

「頼んだよ」


 その翌日の放課後、クラスメイトたちが帰宅しすっかり人気がなくなった教室で、宗助と僕は机を挟んで向かい合って立っていた。授業も終わり、ストーブも落とされた教室はずいぶんと寒く感じられ、人気のなさがさらにそれに拍車をかけている。

「それで、首尾はどうだい。クラスメイトの誰かからうわさの詳細は聞けたかい?」

「当ったり前よ。達夫やらクラスの女子やらからばっちり聞き出してきたさ」

 宗助が自分の足元のカバンからノートを取り出し、机の上に置く。

「メモの準備も出来たし、始めようか。とりあえずは、昨日聞けなかった話の細部、そうだね……。いつ、何処らへんで、何が起こるといううわさなのかって部分をはっきりさせておきたいかな」

 そう言いながら宗助はノートの上半分ほどに、時間、場所、出来事と走り書きをしていく。

「あいよ、まずは時間だな。いろいろと話をまとめるに、どうにも朝の三時から五時くらいに固まって起こってるみたいだぞ」

「なるほど……。随分と早いね」

 ノートに午前三時から五時と書き込まれるのを確認し、話を続ける。

「それで場所だけど……。ちょっとノートを借りていいか?」

 言うが早いか、机の上においてあるノートを引き寄せ、場所のところの空欄にかなり簡略化したこの町の地図を描いていく。

 俺たちの住むこの町は西を海に、東を山に囲まれた小さな町である。海側には漁港が整備されており、毎日多くの船が早朝から漁に出ている。東西をふさがれている町の、丁度真ん中あたりには東の山ほどではないが、小高い山が鎮座しており、その周囲に今僕らのいる中学校や病院、役所などが建っているほか、確か宗助の家や今の漁協の組合長の家なんかがあるのもその辺だと聞いた覚えがある。

 そのあたりの建物を概略的に示した地図の海側の部分、特に港近辺一帯を丸で囲う。

「雑な図で悪いけど、位置関係は分かるからまあいいだろ。どうも心霊現象に実際に遭ったって言っていたのは丸で囲んだあたりの地域の連中が大半らしい」

 宗助がずれた眼鏡を押し上げ、しばらくの間押し黙った後、口を開く。

「ふむ…… 港付近に集中してるのか。この範囲だけと見ていいのかはともかく、ここまで固まってるとなると、気には留めておいた方がよさそうだね」

 宗助が地図の囲まれた範囲から線を伸ばし、地域性アリ? と書き込んでいく。

「そんで最後に、幽霊騒ぎの内容か。と言ってもこっちに関しては、この前話したこととそう変わらない情報しかないな。テレビが勝手についた上に、妙に乱れた映像が流れる、ラジオに変な音声が乗る、あとはそうだな…… 明かりが急に落ちるなんてこともあったらしい」

「これで三つ全部だね、ありがとう」

 最初にあげた三点を聞き終え長考モードに入ったのか、宗助があらぬ方向を見つめ手に持ったシャーペンを小刻みに動かしている。こいつは基本、考え事をする時に手が動くのでとても分かりやすいのだ。

 考えをまとめるのにしばらく時間がかかりそうなことを察し、持ってきていた本を開き時間をつぶす。しばらく読み進めたところで宗助が口を開いた。

「……うん、なるほど」

「お、何か分かったのか?」

「うん、そうだね…… 一応、全部が全部とまでは言わないけれど、説明にはなるんじゃないかなってものは思いついたよ」

「なんだ、歯切れが悪いな。まあいいさ、聞かせてくれよ」

 そう言うと宗助は、心外だと言わんばかりの目をこっちへ向ける。

「歯切れが悪いって言ったって、実際に現場を見てもいないんだから、そう滅多なことを言えるわけないじゃあないか。こんなものは所詮しょせんただの当て推量だよ。一応話すとするけれどその前に――」

「なんだ?」

「ずっと立ち話で疲れたし、とりあえず座ろうか」


 すっかりと日も傾ぎ、西日が差し込む教室の中、俺と宗助は差し向かいで座り向かい合っていた。

「それで? お前の思いついたこととやらを聞かせてくれよ」

 そう急かすと、宗助はこっちを制するかのように片手をあげ、応える。

「まあ落ち着いてくれよ、賢治君。まず、これから話す話は全部、状況証拠から推測した話だという前提を話しておこう。それはそれとして、僕の体験した塹壕ラジオのノイズと君が調べてきてくれた心霊騒ぎの関連性についてだけど、まあかなりの確率で最初に君が言ったように関連性があると考えてよいと思うよ」

「やっぱりそうか。それでその二つは何がどうつながってるんだ。まさかとは思うが本当に両方とも幽霊の仕業だってか?」

 宗助があきれたように肩をすくめる。

「まさか、そんなわけないじゃないか。君にしては面白くない冗談だね。まあただ、両方とも同じ原因であるって言うのは良いセン行ってると思うよ。僕もそう考えた」

 実は全く何も考えずにした発言をほめられたわけだが、とりあえず宗助の話に乗っておこう。

「おお、そうなのか。言ってみるもんだな。で、原因が一緒って全部の?」

 俺の質問に宗助は自信ありげに頷く。

「もちろん」

 そのあまりにも自信たっぷりな様子に一瞬そのまま納得しそうになったが、慌てて質問を重ねる。

「いや、ちょっと待てよ。百歩譲ってラジオのノイズは同じ原因だって言うのは分かるが、テレビと明かりの件もか? そんな都合のいいことが――」

「あるんだよ、それが。全部に説明をつけられる丁度いい原因がね」

 俺の質問を遮り、宗助が続ける。

「賢治君、CB無線って聞いたことあるかい?」

 CB無線? なんだ、それは?

「いや、聞いたことがないな。アマチュア無線の親戚か何かかい?」

「いや、似てるけどちょっと違うね。Citizen Band無線、アマチュア無線よりももうちょっと業務向けの用途、例えばトラック運転手が使う無線なんかに使われているようなものさ」

 一向に話が見えてこないが、宗助の話を急かしても大抵ろくなことにはならない。ここは大人しく黙って続きを聞くとしよう。

「で、そのCB無線。特に長距離トラックなんかが使っている物に関してなんだけどもね。僕も無線フリークどもの雑誌を読んで知ったんだけれど、どうも違法改造が横行しているらしくてね。許可されているよりもかなり強い出力の電波を垂れ流しているらしいんだ。じゃあ、ここで賢治君に質問だ。大出力の電波が野放図のほうずに垂れ流されると、一体どうなると思う?」

 まるで授業中の教師か何かのような体で宗助がこちらに質問を投げかける。しかし、そもそもCB無線が何かすら知らなかったというのに分かるわけがないだろう。

「いや、全く分からん。技術がどうこうなんて話は俺にゃあ無理だ。しかしまあ、そうやって聞いてくるってことはろくなことは起こらないんだろ?」

 そう答えると宗助は、つまらなそうな顔をした後に、話を続ける。

「話の流れを考えたら、予想くらいは立つだろうに。考えるふりくらいはしたらどうだい。まあいいさ、強い電波が放出されると付近にある無線式だったり電子回路を使ってたりする機械、まあテレビだったりが誤動作したり、ブレーカーが勝手に落ちたりするのさ。あとはまあ、単純に混信が発生して無線に悪影響が出たりもするね。ここまで言えば大体言いたいことは分かるだろう?」

「ちょっと待ってくれ、今から考える」

 正直なところ、分からんと答えて説明をすべてぶん投げたい気分だったが、流石に少しは考えないと宗助の奴に何を言われるか分かった物ではない。

「……なるほど、ラジオとテレビは単純に電波による誤動作、明かりが消えたのはブレーカーが落ちたから、そう考えれば筋は通ると」

「その通り」

 話のつながりとしては納得がいったが、それでもいくつか腑に落ちない点が残っている。

「なあ、宗助。少しいいか? 確かにお前の言う通り違法無線のせいと考えれば説明はつくかもしれないが、そもそもこの町には長距離トラックなんてそう滅多に走ってないだろう? いったい何がそんな違法な電波を出してるって言うんだ?」

「ああ、それは漁船だと思うよ」

 宗助がこともなげに言う。

 漁船? 今までの話の一体何処から漁船なんて物が出てきた?

「いや、なんで漁船がそんなCB無線なんて使っているんだ?船にはちゃんと船舶無線があるだろう。それに、さっきまでの話で漁船だって特定可能な根拠なんかあったか?」

 そう聞くと、宗助は失念していたという感じでこちらを見る。

「ああ、ごめんごめん。漁船がCB無線を使ってるというか、船舶無線とCB無線は使ってる周波数帯が似通っててね。CB無線の過剰出力で起こる問題は船舶無線でも起きうるのさ。これはまあ想像になっちゃうんだけど、たぶん何処かの船で何も考えずに電波出力を増強させるためのブースターをかませたか、技適ぎてきを通ってない無線機でも使ったんじゃないかな」

 手持ちの雑学を披露する機会に恵まれた宗助が、立て板に水のように話をしてくるが、こっちにしてみればただの謎用語の羅列られつだ、ちょくちょく質問を挟まないと何を言っているかさっぱりである。

「ちょっと待て。ブースターはなんとなく分かったが、技適って何だ?」

「ん? ああそうか、さっきも言った通りみんながみんな好き勝手に電波を使うと色々と問題が起こるからね、国が基準を定めてそれに適合しない物は御禁制の品ということにしたのさ。その制度のことを技術適合証明、まあ長ったらしいから大体略して技適って言うのさ」

「なるほどな、まあ電波関係のルールってとこか」

 宗助が何とも言えない顔をする。

「うん、まあそれでいいと思うよ……。それで話を戻すけど、これが漁船の仕業って考えた証拠だったっけ? それなら丁度賢治君の集めてきてくれたうわさの中に有ったじゃないか」

「うん? それはあれか、港の付近に集中してるってところか?」

「いや、それもあるけどそうじゃない。時間だよ、時間」

 そう言って、教室の壁に掛けられている時計の方を指す宗助。

「朝の三時から五時あたりといったら、大体漁が始まって船が出て行くあたりの時刻じゃあないか」

 なるほど、言われて見ればその通りである。話を聞いてきたのは俺なのだから、もっと早い段階で気が付くべきであった。

「なるほど、大体納得したよ。ただ、最後に一つだけいいか? お前の家って確かこの辺だったよな?」

「ああ、そうだよ。君が描いた地図にもそうあるじゃないか」

 宗助が、それが何か? と言わんばかりの表情でこちらを見る。

「いや、他の被害が出てるってところとずいぶん離れているような気がするんだが」

「うーん。僕も確かにそこは少し気になるんだけどね。原因が恐らく電波だし、実証も出来ないからそんなこともあるんじゃないかとしか言えないねえ」

 なんだか釈然としないが、電波に詳しくもない俺では特に反論も思いつきそうにない。

「なるほど、そういうことにしておこう。それにしてもよくもまあ、あれだけの話でここまでの推量を組み立てられるな」

 俺がそう言うと、宗助は大きく伸びをしながら答える。

「いやあ、塹壕ラジオの時点で違法無線じゃあないかって目をつけてはいたんだけど、電波の出所が分からなくてねえ。賢治君のおかげでなんとか得心とくしんのいく結論まで考えられたよ」

 こうして、俺と宗助の間では幽霊騒ぎは終わった話題となった。そのはずであった。


 数日後、僕と宗助はふたたび人気のない教室に集まっていた。今度はこっちから宗助を呼び出した形である。

「それで、一体なんだって言うんだい? この前の話の続きだって言ってたけど、あれはもうとっくに片が付いたじゃないか。明日はせっかくの休みなんだし、早く帰りたいのだけれど」

 宗助は、終わったと思った話を蒸し返されたからか、不思議そうにしている。気持ちは分かる、僕だって幽霊騒ぎは終わったと思っていた。

「いや、それなんだけど、一回クラスの連中に話を聞いたせいであれからまたいろいろとうわさを聞かされてな。そしたらどうもこの前のお前の話とかみ合わないんじゃないかって話がいくつかあったんだよ」

「へえ、まあ所詮ただの推測だからそんなことが有っても不思議じゃあないけど、結構自信があったんだけどな、あの仮説」

 思った通り宗助は簡単に話に食いついてきた、早く話せと思っているのが目から読み取れる。なんだかんだ言っても自分の考えには自信のある奴だ。反証が出てくると気になってしょうがないらしい。

「新しく聞いた話によると、どうも港周辺だけじゃなくこの辺でも幽霊騒ぎが起きだしたらしいぞ。そこの病院で電動の車いすが勝手に動き始めたとか、漁協の組合長の家でもテレビや明かりが勝手に点いたり消えたりしたとかそんなところだ」

 宗助が怪訝そうに、首を傾げる。

「へえ、だけどそれだけならこの前の話でも十分説明できると思うんだけども」

「まあ、そう急ぐな。本題はここからさ」

 せっついてくる宗助を片手で制し、話を続ける。

「新しく聞いた方の話はな、前のうわさと時間が違うんだよ」

「時間?」

「ああ、前のうわさでは騒ぎが起こったのは大体午前の三時から五時くらいだったろう? それが今回の話となると午前零時とか逆に真昼間の十二時に起こったって話になってるんだよ」

「確かに時間が変わってるね。でもそれ、うわさが伝わっていくうちに時間帯があいまいになっただけの話じゃないのかい?」

 宗助の質問に、即座に首を振る。

「いや、他はともかくそこの病院の話は、夜勤をやってたうちの叔母が見たって話だから、少なくともその時間帯に何もなかったってわけじゃなさそうだ」

「なるほど……。そうなると、新しく増えたっていううわさの内、少なくともいくつかは有ったこととしてみた方が良さそうだねえ」

「で、そうなると、だ。前置きが長くなったが、ここからが本題さ。この前のお前の仮説は、午前三時から五時に漁に出る船のせいで騒ぎが起こってるってことだっただろ? そうすると、この午前零時の方の騒ぎを説明できなくないか? いくらなんでも零時やら十二時に漁に出るような船はこの辺にはいないぜ」

「確かに、そうだね。これはちょっと説明がつかない。なんでだ……」

 そう言い残すと宗助は黙り込み、長考に入る。

 宗助はしばらくの間押し黙った後、突然髪の毛をかき乱しながら口を開いた。

「いやあ、分からない! なんで午前三時以外に同じようなことが起きるんだ? 本当にさっぱりだ」

 どうやら、宗助のやつでもさじを投げる程度には、筋の通った説明を考えるのが難しいらしい。困ったな、自分ではスッキリする説明を思いつかないから、宗助に話を振ったっていうのに……。

「まあ、いろいろと話が有って、正直こんがらがってるからなあ……。とりあえず、一回話を最初から整理しなおしてみないか?」

「……そうだね、そうしようか」

 うめいていた宗助が、席を立ち先日メモを取ったノートを取って戻ってくる。ノートを開き、新しく騒ぎがあったという場所とその時間帯を書き込んでいく。

「えーっと、病院で有って、零時位、組合長の家は昼間の方だな……。なあ、宗助、お前がノイズを聞いたっての何時だったっけ?」

「えっと……。あれは確か日が変わる前後だったから、そういえばあれも零時位だね」

 しばらくの間そうして作業を続け、ようやく改良版の地図が完成した。

「いやあ、途中でなんとなく察しがついたけども、こうしてみると露骨だねえ」

 宗助がそうこぼすのも無理はない。完成した地図の上では見事なまでに、港側に午前三時から五時に騒ぎが起こったという場所が、町の中心にある学校の裏手の山付近にそれ以外の時間帯で騒ぎが起こったという場所が固まっているのが、はっきりと見て取れたからだ。

「これ、どう思う? 僕はもうあからさまにここの裏の山が怪しいと思うんだけど……」

宗助はそう言いつつ、山の方に視線を向ける。

「俺も正直そう思うが、これ結局どういうことだ? 裏の山に電波の発信源でもあると?」

「うーん……。正直、起こってることの大体をそれでうまいこと説明できる以上、そうとしか考えられないんだよねえ。時間帯が違うんだから、別件であると考えた方が素直だろうし」

 そう言われても、いまいち腑に落ちない。第一、わざわざそんなことをする理由が見えてこない。

「しっかし、なんでわざわざ山の中にそんな設備なんて構えるんだ? そりゃあの山は林道が広いから出来なくはないだろうけど、なにかの間違いじゃないのか?」

「なんで、ねえ……」

 そう言うと宗助は一人思索の沼に沈んでいく。こうなるともうしばらくは声をかけても無駄だろうと判断し、自分一人で考えを巡らせる。もしも本当に電波源とやらがいるとして、一体何が目的だ? しかし、これといったものは思いつかない。

「――賢治君」

 宗助が真剣そのものの声で僕を呼ぶ。

「お、なんだ? 何か思いついたのか?」

「ちょっと確かめたいことが出来たから、明日の昼頃僕と一緒に裏の山に登ってくれないかい?」

 よく分からないが、明日は休みだ。別に特に不都合はない。

「ずいぶんと急だな、まあいいけど」

「ありがとう。ああ、服装はできるだけ目立たない色で頼むよ」

 宗助の言葉を了承しようとして、違和感に気づく。一般的に山を登る際は、目立つような服装が良いとされている。それを知らない宗助ではあるまいし、なぜわざわざ? 先ほどからの宗助のピリついた雰囲気から察するに、どうにもずいぶんときな臭い話が進行しているらしい。……面白いことになってきたじゃあないか。

「おい、宗助。お前いったいなんだって山狩りなんかするつもりなんだ? 付き合うのは別に構わないけど、目的ぐらいは言ってもらわないとな」

 そう問いただすと、宗助はこちらをまっすぐに見据えて答える。

「山狩り、とまで言ったつもりはないんだけどね……。まああ目的としては、ほんとに電波源を設置してる輩がいるかどうかの確認といったところかな。これ、もし実際に有るとなれば、ちょっとしかるべきところにお話した方が良さそうな案件な気がしてね」

 山狩りの目的は話したが、なぜそれをした方がいいと思ったのかには触れない。どうやら、今のところ話すつもりはないらしい。

「分かった、それでいい。ただ、後でしっかり説明はよこせよ」

「それはもちろん、整理がついたら必ず話すさ。じゃあ明日はよろしく」


 翌日、念には念を入れてしっかりと山に入る準備をしていく、なにせ宗助のことだ、目先の考え事に気を取られてその他に必要なものが抜け落ちるということも十二分に考えられる。スプレー式の虫よけ、マスク、防寒用の燃料式カイロにそれに使うための使い捨てのライターをザックに入れれば用意は完了だ。

 正午の少し前に約束通り、山のふもとに着くが宗助の姿はそこには見当たらない。少々早く来すぎたようだ。吹きさらしの中、何もせずに待つのはなかなかにつらい。カイロの口を炙り、暖を取れるようにする。使ったライターをポケットにねじ込み、両手をカイロで温めていると宗助がやっと現れた。言われていた通りお互い茶色を基調とした目立たない服装をしている。ただし、宗助だけは首から小さな双眼鏡のようなものをかけている。

「よし、じゃあ行こうか」

 集まるや否や宗助は、ずんずんと山に入っていこうとする。

「ちょっと待て、いきなり山に入ろうとするな。虫よけがまだなんだ」

「……今、十二月だよ? 必要ないだろう?」

 こいつ、やっぱり用意してないな。変なところで予想通りに抜けやがって。

「アホ、十二月は普通にダニやらツツガムシの活動時期だよ。どうせ持ってきてないと思ったから、こっちで用意してあるさ」

 ザックから虫よけを取り出し、宗助にもざっとかけていく。アホ呼ばわりが気に食わなかったのか、ずいぶんと不服そうな顔をしているが知ったことか。山登りの基本中の基本を忘れる方が悪い。

「ああ、それとついでだ。こいつも渡しとくよ」

 そう言って宗助に、マスクを渡しておく。

「マスク? これから運動するってのにこれが必要かい?」

「マスクはあれさ。今回、電波源を設置した奴が居るかもしれないんだろ? 流石に堂々と違法なことやってるのが居るかもしれんのに、顔丸出しはまずいだろう」

「……言われてみればそうだね。気づかなかったよ」

 宗助の顔は暗い。ただでさえ運動不足の奴のことだ。マスクを着けて山を登らなければならないことに絶望しているのだろう。

「しょうがないか。じゃあ行こうか」

 相変わらず固い顔をした宗助を先頭に、林道へと足を踏み入れる。十二月の山は下草も枯れつくし荒涼としており、人気はもちろんない。車が入れるようある程度整備されている林道を、ただひたすらに二人で黙々と進んでいく。歩く、歩く、ただひたすらに歩く。山に入ってから四十分ほどたっただろうか。前方の道の先に何かが止まっているのを発見し、立ち止まる。車か何かのように見えるが、距離が遠くはっきりとは分からない。道具を使わないとはっきりとは見えないだろう。宗助が木陰に身を隠しつつ首元にかけた双眼鏡で前方の物体の様子を確認する。

「コイルの巻かれたアンテナ……。大当たりだ。賢治君も見るかい?」

 渡された双眼鏡を覗くと、そこには確かにみょうちきりんなアンテナがついた車があった。つなぎか何かを着た男がその近くで何やら作業をしている。

「で、あれが?」

「僕らの言うところの謎の電波源さ」

「やっぱりそうか。で、今日のお目当てはこれで達成したと思うんで、そろそろ諸々の事情の詳しい説明が欲しいんだが?」

「まあ、そうだね。確かめたいものは見れたことだし、そろそろきちんと話すよ。ちょっと戻りつつ、落ち着いて話せる場所を探そう」

 そう言うと宗助はきびすを返してきた道を戻り始める。しばらく戻り、道を少し外れたところにやぶに囲まれた少し平たい場所があったので、腰を落ち着ける。

「それで、何処から話そうか。とりあえずは聞かれたことには答えるつもりだから、何か指定してくれよ」

「そんじゃあ……。あれだ、あれ。お前、昨日本当に電波源が有るなら、まずいことになるだのなんだの言ってたよな? あれ結局何のことだったんだ? 一応考えてはみたものの俺の頭じゃさっぱりでな」

「また人の言うことを雑に改変する……。あれは、今回起きてること全部を悪いように取ったら、大分きな臭い可能性に行き着いたから言っただけだよ」

「へえ、最悪の可能性」

「あの時、賢治君のおかげで仮に電波源があるとしてそれはなんで違法電波を流してるんだろうってところに考えが向いてね。最初のうわさの時に君が言ったようにこの辺にはトラックなんてそう来ないから、トラック同士の交信というわけでもない。違法電波源になりうる時点で結構なサイズの設備が必要になるから、アマチュア無線もどきをやりたいのであれば、その辺のハンディ無線の方がよほど手軽だ。何より違法じゃないしね。船の無線を妨害したかったのなら、時間が違う上にもっと海寄りの場所でやるだろう。となると自然になにかに悪影響を及ぼしたかったんじゃないかと思ったんだ」

「つまりなんだ、この幽霊騒ぎを起こすこと自体が目的だったてことか?」

「いや、流石にこれ自体が目的とは思えなかったからね。騒ぎになったことは目的から外れた事態だと考えた。このあたりが幽霊騒ぎで騒がしくなったこと以外の悪影響と言えば、もっと直接的な機械の誤動作だ。そこで、誤作動すると深刻な事態を引き起こしかねない物がないか考えてみたら、一つ思い当たる物があったんだ、ストーブだよ」

「ん? いや、ちょっと待てよ」

 あまりにも唐突に予想外の物が出てきたため、思わず話を遮る。

「この前話した時に、無線式の機械が誤動作するって言ってなかったか? ストーブは無線式じゃないだろうが」

 そう言うと宗助は、あきれたようにこちらを見る。

「毎回毎回、人の話をざっくりとしか聞いていないからそんな勘違いをするのさ。僕はあの時、無線式だったり制御に電子回路を使っていたりする機械が誤作動すると言ったはずだよ。つまり、最近の電子制御式のストーブは十分に誤動作しうるのさ」

「なるほど、そいつはすまない」

 宗助はなおもお冠のようだったが、話を続ける。

「まあいいさ。それで、ストーブの誤動作の可能性を考え付くと、それまで意味不明だった第二の幽霊騒ぎが起こっていた時間、午前零時だったり、昼の十二時だったりしたあれだね、にもなんとなくつながりがあるんじゃないかというのが見えてきた」

 ここまで言えば分かるだろうと言わんばかりの目で、宗助が俺の方を向く。

「流石に分かるさ、家の中の人の目が減る時間帯ってことだろ?」

「正解。ここまでくると、謎の電波源がもしほんとにいた場合、そいつが意図的な失火を狙っている可能性があるってことに思い至ってね、それで、実在を確かめたら後はしかるべきところに話をした方がいいかもしれないって言ったんだよ」

 そこまで話し終えると、マスクをつけた状態での長話が疲れたのか宗助が軽く息を整える。

「なるほどな。……ということは、さっき俺たちが見たあの車は事故に見せかけた放火犯の車ってことか?」

「確たる証拠は何もないけど、僕はそうなんじゃないかって思ってるよ」

「ちなみに、もしそうだとしたらさっきの奴は何処狙ってたんだ?」

「いや、流石にそこまでは――」

 道の方向からがさり、がさり、と藪が揺れる音が聞こえた。

 宗助と二人、顔を見合わせ腰を上げる。

「……動物かい?」

「だと思うか? 少なくともそれっぽい臭いはしないぞ」

 動物の類なら、少なくとも周囲からあの何とも言えない獣の臭いがしたっていいものだ。だが、今回はそんなこともない。

「まずいんじゃねえか、これ」

「あの距離でこっちに気が付いたって言うのか……。どんだけ勘がいいんだよ」

 そうこう言っている間にも、音はどんどんとこちらへ近づいてくる。明確にこちらに向かっているようだ。

 とりあえず、何があってもいいようにしておくか。

 ザックからスプレーを取り出し、持っておく。投げるくらいしか出来そうもないが、丸腰よりは良いだろう。今持ってる物はあと、懐のカイロにポケットに入れっぱなしだったライターか……。畜生め、動物だったら火で追い払えるのだが。

「おい、宗助」

 向かってきている何かに聞こえないように声を潜め、宗助を呼ぶ。

「なんだい?」

「とりあえず、この後どうするか考えておこうぜ。もし来てるのがそのまま下山だ。逆にさっき見た奴が追ってきたようだったら――」

「だったら?」

「一発派手におどかして、そのまま逃げるぞ」

「分かりやすくていいね、了解」


 山側、林道の方の藪からつなぎを着た男が一人現れる。俺たちとの距離は約三メートル弱。いかにもそこら辺にいそうな風体ではあるが、間違いない。先ほどあの車の近くで何かをしていた男だ。左足を前に出すような状態で、半身になって男と対峙する。左手にはライターを握りこみ、右手にはスプレーを持っている。スプレーに関しては見えても良いが、ライターだけは隠し通さなければ……。

「おい、きみ達ここに何しに来たんだ?」

 男がこちらに対しそう聞いてくる。いかにも偶然こっちを見つけたように話しているが、こっちに向けてわざわざ林道を外れて藪から出てきてそれは、流石に大分無理があるだろう。

「僕らはただ山登りに来ただけですよ、なにか――」

「嘘は駄目でしょ。君ら、サツに行くつもりだろ? 見られた以上帰すわけにはいかないなあ!」

 宗助の話が聞かれるはずもなく、男はこっちに対し突っ込んで来ようとする。

 男が動くそぶりを見せたその瞬間、左手のライターに着火し、男とライター、スプレーが直線状になるようにしてスプレーのトリガーを引く。空中に真っ赤な線が伸びる。スプレーのガスに火が点いたのだ。距離があるため、正直こけおどしくらいにしかならないような威力だが、もとよりそのつもりである。

「スプレーなんかぐわっ――」

 突っ込んで来ようとした男が怯み、たたらを踏んで動きが止まる。

 その瞬間を逃さず、宗助とともに脱兎のごとく逃げを打つ。

 藪を抜け、林道ではない斜面の木々の間を駆け降りる。整備された道ならともかくこう入り組んだところを抜けるなら、体の小さいこっちの方が速い。そのまま斜面を登り、下り、藪漕ぎをし、ようやくふもとにたどり着いた時には俺も宗助も息も絶え絶えになっていた。

「はあ、はあ……。撒いたか?」

「はあ……。たぶん、ね。というか賢治君、あんなことするならせめて一言欲しかったな……」

「やかましい。緊急だったんだからしょうがないだろう。それよりもお前、声を出すんじゃない。面隠した意味がなくなるだろうが!」

「それこそ、しょうがないじゃないか。あの状況でだんまり決め込めるほど神経図太くないんだよ」

「はあ……。まあいい、それよりも警察だ警察。わざわざ手出してきたんだ、ありゃ間違いなく放火犯だろう。ちゃっちゃっと垂れ込んで手引こうぜ」

「そうだね、同感だ」


 数日後、早朝の学校にて俺と宗助はまたまた膝を突き合わせていた。前回までと違う点として、間の机の上にここ数日分の朝刊の地方版が載っている。

「しっかし、いろいろあったなあ、ここ数日」

 そう言って机の上の新聞を指し示す。一番古い新聞には、この町の漁師の男が車載無線による電波法違反等の現行犯で逮捕されたという旨の記事が書かれている。

 あの後、警察に学校の裏の山に怪しいアンテナをつけた車があったこと、その持ち主らしき男に山中で追われたなどと通報したところ、即刻山の捜索が実行され、あの男はお縄となった。

 ちなみに、山に入った経緯に関しても警察にいろいろと聞かれたが、そこは二人で口裏を合わせて山登りということで押し通した。

 そうして捕まった男が取り調べの末自白した内容がここ数日この片田舎の新聞の紙面をにぎわせているのである。

「まっさか、あんな手の込んだことをした理由が共同組合の融資に落ちての逆恨みとはな……。理由を考えても分からんわけだ、やり口のめんどくささに対して動機がしょぼすぎるだろうが」

「まあ、何かやらかす奴の考えることなんてそんなもんなんじゃないかな……。そもそも機械の誤作動だよりで確実性が全くない方法をああも何度も何度もやれる時点でまともじゃあないでしょ。まあ、僕としてはなかなか面白かったし、夜中のノイズも減ったしで、良かったことずくめなんだけどさ」

 そう言うと宗助は大きく伸びをした後机に突っ伏した。

「ああ、疲れた。まさか、軽い気持ちで首を突っ込んだ幽霊騒ぎからこんなことになるなんて……。しばらくはゆっくり過ごしたいね」

「全く持って同感だが、宗助、それは難しいだろうなあ」

「どうしてだい?」

「だって今、師走じゃないか」

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幽霊ラジオの影 / 墨田拓也 作 名古屋市立大学文藝部 @NCUbungei

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