第三章(3)

 ――文芸部、もとい、俺たちSOS団の部室。


 俺が出ていった後、無人になっている部屋に凉宮ハルヒは戻ってきた。ここを飛び出してどこに行ってたか知らんが、どうやら荷物を取りに来たらしい。


 そこへ。ハルヒにつづいて、入ってきた影がある。


 その影を視界の隅に捉え、ハルヒは身体をピクリと震わせたが、あえて目を向けずに軽く深呼吸する。そして、口を開いた。


「……まだ荷物残ってんだから、見てないとダメじゃない。聞いてるの、キョ――…」


「や……やあ。久しぶりだね、涼宮君」


 だが、ハルヒが振り返った視線の先。そこにいたのは、俺じゃない。


 俺が朝比奈さんと一緒に押しかけていって、野暮用を依頼した相手。


 北高コンピューター研の、部長氏だ。


 ハルヒは、びっくり箱でも開けたような顔になる。しかしすぐ、唇はへの字になり、冷たい声を出す。


「なによ、何か用? 有希なら、今日はいないわよ」


「ああいや…。今日はキミに用があって来たんだ。なんでも、WEB小説を書いてるそうじゃないか?」


「……誰から聞いたの?」


「いや、君の相棒――キョン君がね。帰り際CPルームにやってきて、『俺には上手くアドバイスできないから、見てやってくれないか?』と頼むもんでね。聞けば、君が異世界ファンタジーを絶賛執筆中だとか。ここの長門君には世話になっていることだし、僕としても、協力できることがあるならとこうしてやって来た訳だ」


 それを聞いて、ハルヒは興味を示した。


「ふぅん……。キョンが頼むってことは、こういうのに詳しいんでしょうね?」


「異世界ファンタジーだろう? それなら任せ給え! 古今東西、小説からゲーム、映画やコミックスまでお手の物さ。

 なんたって異世界は、我々のような人間のエルドラドなのだから!」


「そこまで言うなら、意見くらい聞いてやるわ。これを読んでどうしたら人気が出るか教えなさい。

 役に立たなかったら承知しないから。そうね、異世界らしく磔の刑よ!」


「こ、恐いな! キミはもっと普通にできないのか!? どれどれ………」




 その翌日。


 空前の異世界ブームも、異世界にまつわる奇妙な出来事も、示し合わせたかのようにピタリと止まった。

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