第二章(1)
第二章
次の日の放課後、SOS団がよく集まる喫茶店で、俺、長門、朝比奈さん、古泉の4人は異世界からのドラゴン事件について話し合った。
今日のハルヒは、昨日思いついたアイデアとやらを試してみると言って部室のパソコンからアップロードすると、今日は皆を解散させた。意外と、結果はリアルタイムで見たくない方なのかもしれんな。
「とにかく、あの黒い穴からドラゴンが現れるなんて、誰が予想できる? 長門、あれは一体何だったんだ?」
ウェイターがオーダーを取って去っていくなり、俺は気になってることを切り出した。
「こことは異なる宇宙、すなわち異世界との接続点が一時的に開いたと推測される。それにより、異世界の生物がこの世界に侵入した」
「それは……僕たちの宇宙にいるはずのない生物が、穴から出てきそうだったということですか? 貴女方のボスでもある、全宇宙の事象を知る情報統合思念体でさえ知らない…正真正銘、異世界の生命体であったと?」
「そう」
回答を得た古泉は、文字通り絶句した。
そんなに驚くことか? お前が超能力で闘ってる神人だって、似たようなもんだと思うが。少なくとも横やりを入れづらいくらいには緊迫した真面目顔だった。
「また同じことがまた起きる可能性は?」
「情報統合思念体は既にその接続点を閉鎖した。再発の可能性は低い」
「そうですか……しかし、これが涼宮さんの無意識の力によるものだとしたら、今後も似たような事象が起こる可能性を排除できませんね。彼女が異世界ファンタジーに興味を持っている今、特に注意が必要でしょう」
全体を見わたしながらそう言われたって、どう注意すりゃいいんだ。俺にはサッパリ解らんぞ。
「でも、涼宮さんが書こうとしている小説が上手くいけば、彼女は満足して、こうした事態も収まるんですよね…?」
アイスティーのストローから口を離した朝比奈さんが、怖ず怖ずと割って入った。
「そう上手くいくでしょうか? 今回はベストセラーを目指すなんて言ってるけど、あれが本気だとしたら、ヤバいことになりませんか?」
俺は言ったが、古泉の方は結論が出たらしい。顎から指を離すと、比奈さんに同調して、
「確かに、涼宮さんに満足するファンタジー小説を書かせることが、今回の問題を解決する最善の策かもしれません。アクセス数や評価点の問題は、最悪、僕の所属する〈機関〉と長門さんでなんとかしたいと思います。
書籍化の方は……そうですね。アップロードが進んだら、〈機関〉の方で頼りになりそうな知り合いに、掛けあってみることもできます」
最近思うんだが、お前の〈機関〉はフリーメーソンか何かなのか? 孤島に豪華な別荘を持ってる知人さえいるのだから、出版関係者がいても不思議はないか。
この分だとハルヒの希望次第で将来は芸能活動も、政治家デビューもありえそうなムードだが、最近はそういうの五月蝿いんじゃないか。
「世界の破滅に比べれば、安い物ですから」と古泉は涼しい顔で付け加えた。ちぇっ。
「だけど本になるには、それ相応の質と量が必要だろ。あいつが本の長さになるようなマトモな読み物を、最後まで書けるって保証はないぞ?」
「それこそ、僕たちの出番ではないですか。彼女の創作を活動を励まし、適切なアドバイスを与えてあげれば、涼宮さんのことです。本当に大ブームになる小説を書いてしまうかもしれませんよ」
言いきりやがった。それには大衆どもの趣味嗜好に、パンゲアが分裂するレベルの地殻変動が起こらないと駄目そうだがね。
「私も、それがいいと思います。涼宮さんが何かに夢中になっている時は、いつもとても幸せそうですから」
朝比奈さんにそう言われると、それでもいいかもという気がしてきますね。
残る俺は、唯一無言を貫いている隣の参加者に訊く。
「お前はどう思う?」
長門は俺の方にいつもの無表情顔を向けてからゆっくり正面に向き直り、それからツーテンポほど遅れて、
「小説の完成に向けて、必要な支援を行う」
多数決なら、これで決まりだ。俺だってそんなに反対したい訳でもない。どうせその励ましだのアドバイスだのはコイツらがやってくれるんだろうし。
が、心の中で思った。『でも、本当にそれだけでいいのか? ハルヒが何を望んでいるのか、俺たちは、それに本当に応えているのか…?』
なんだって俺は、こんなこと思うんだろうな。
結局、その日の話し合いは、他のメンバーがハルヒに満足するファンタジー小説を書かせることに賛成する一方で、俺だけがその解決策に疑問を抱いているという状況で終わった。
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