3話:少年と銃
「…こ、こんな話、信じてもらえるか、分からない、…ですけど」
少年の手は、銃をぎゅっと握ったまま、未だに震えている。
「…あの人は、たぶん、警察ではありません…」
しかしその目は随分と落ち着いたように、いや、むしろギラギラと燃えているようにさえ思えてくる。
「で、も。警察かも知れないって、…おも、思った理由は、あ、あなたが」
その目の違和感を解き明かすよりも早く。警察、と言う言葉が少年の口から出た瞬間、船長は自分のミスに気付いた。気づかないだろうと思ったのは、この少年を見くびっていたのだ。手に冷や汗が滲んでくる。コーヒーをこぼしてしまったかのような。やらかした後に、消えないシミが広がっていくのをただ見つめているような緊張感だ。
それでも、少年の言葉はあっけなく紡がれる。
「は、犯罪者…だから、で、すよ…ね」
宇宙は広い。時代と場所によって、犯罪の種類も様々だ。人類が長く夢見てきたことが、実際には非常にやっかいな問題を引き起こすこともある。クローンの製造は今の時代にも犯罪だ。コールドスリープも、身体機能を遺失する可能性が問われ未だに賛否両論がある。
そして、時間をさかのぼることもまた、禁忌とされている。
「僕、…この宇宙船にタイムリープ機能があることを…知ってま、す。それを使って、何度も… あ、あなたを、…助けるために。戻ってきて、るんです」
手首に振動を感じる。電話が鳴っている。助手からの電話だ。出なければ、と思いながらも船長は少年から目を離せずにいた。むしろ少年の視線が先に船長の手首の上に留まり、怯えた表情になる。出てはいけない、と釘を刺すような視線だ。
迷っている間に電話が切れる。嫌な汗が滲んでくる。(逃していい電話だったのか…?)わからない。間もなくして二度目の電話がかかってきた。軽い振動でしかないのに、まるで手首を締め付けられているかのような錯覚に陥る。頭によぎるのは、先ほどの助手の言葉だ。
―今回の理由も、後でお聞かせください。
それは助手が、タイムリープの燃料残量が減っているのを見つけた時に言ってくる言葉だ。今回のタイムリープはどんな理由からだったのか、と。言葉の意味を分かっていても、前にタイムリープを報告してから船長は一度も時間を遡っていない。だから、その意味は今になって明らかになった。
戻ってきたのは、この少年だったのだ。
逃亡者の船 半貫康彦 @ananas96
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