新世界創造用ヒトガタ
春乃ねむり
第1話
とあるとても高い次元に位置する場所のお話です。
そこには新しい世界を創造する創造者がいました。創造者は自身の存在する階層より下の次元に新しい世界を創ることで自身の存在を安定させていました。
存在が不安定なのは、創造者がいる場所には創造者以外には誰もいないからです。創造者を認識するモノが何もないので常にそのカタチや存在は揺らいでいました。本当なら同じ次元に自身を認識してくれるような存在を創り出せれば良かったのですが、そうするための材料が足りません。下位の次元へ新しい世界を創るのは、同じ次元で創り出すよりも必要な材料が少くてすむからなのです。
新しい世界を創るのは簡単ではありませんでしたが、それを怠ってしまうと自身の存在自体が無くなってしまいます。創造者は新しい世界を創るため自身の存在する力である存在力を材料にしています。存在力の一部を切り取り、世界の元となる概念を集め、こね、丸めて下位の次元へそっと落とします。そうしてまた新しい世界が生まれるのです。新しい世界を自分が見ること。新しい世界が存在するということ。その事実が創造者の存在力を維持しているのです。
ある日のことです。創造者は自分が遠い遠い昔にニンゲンという生き物だったことを思い出しました。創造者として新しい世界を創るようになったはじめの辺りには自分以外のニンゲンもいましたし、創造する世界の元ももっと複雑な形をしていました。新しい世界を何度も何度も創っているうちにいつの間にか周りにいたニンゲンは居なくなってしまっていたのです。
今までのように単純な形をした世界を作り続けていても創造者は自身の存在力を保つことは出来るのでしょう。ですが、その状態がいつまで保つのかもわかりません。
創造者は少しだけ考えて、次に創る世界の元をもう少し複雑な形にすることにしました。単純な形よりも複雑な形にする方が存在力を消費してしまいます。ですが、気付かないうちにすり切れて自身の存在が全く無くなってしまうよりは良いだろうと思ったのです。
どんな形にしようと考えた時に創造者はかつてニンゲンとしてあった時の姿を思い描くことにしました。あまりにも古い記憶です。細かい形状を思い浮かべる事が出来ませんでしたが、大まかな5つの突起の付いた形の世界の元が出来ました。ニンゲンの形を模したものはニンギョウ又はヒトガタと呼ばれていました。創造者はその世界の元をヒトガタと呼ぶことにしました。
創造者がそのヒトガタを下位の次元へ落とすとただ丸めただけの世界の元とは違う世界が出来ました。その世界にはニンゲンと似た形の生命も生まれてくるようになり、それをじっと観察していた創造者は丸めただけの世界の元で世界を創った時より存在力が高まるのを感じたのです。創造者は改めてニンゲンだった時の姿をより詳しく思い出すようになりました。
創造者は、ニンゲンだった時の姿に近づいたヒトガタを創ることを楽しみにするようになりました。そうして楽しんで創ったヒトガタが新たに創った世界は創造者の存在感をより高めていくのでした。
ヒトガタの形をニンゲンだった頃の形に近づける事に成功した創造者は、ヒトガタを飾るようになりました。新世界に生まれたニンゲンたちが色んな衣装を着ているのを面白いと思ったのです。
創造者の記憶はとても摩耗していましたから、衣装の記憶は残っていませんでしたので今までヒトガタに着せていたのはとてもシンプルな衣装でした。新世界に生まれたニンゲンたちが考えて作り出した衣装を記録して、次のヒトガタに着せることにしたのです。
通常よりはよりたくさんの存在力を消費するとはいえヒトガタに衣装を着せて世界を創るとまた以前とは違う形の世界が出来ました。多種多様な世界は創造者をより楽しませ、それに加えて存在力もよりたくさん増えていきました。
今日もまた創造者は新たなヒトガタを創ります。以前は自身の存在力を保つためのものでしたが、自身が楽しむためのものにもなっています。創造者は新世界をヒトガタで創り続けるのでしょう。自身の存在力が摩耗して尽きてしまうその時まで。
新世界創造用ヒトガタ 春乃ねむり @harurem
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