第43話 死闘~ 奥原 一 VS 牛【前編】

 のしっ、のしっ、のしっ、のしっ、のしっ、のしっ、のしっ、


 牛はスーパーとホームセンターの間の連絡通路に入った。奥原を追ってくる。

(来やがったな。さぁ、どうするものか‥‥)

 奥原は頭の中で牛をどう殺すかを考えていた。

 その時、ネイルガンのトリガーの横に切り替えスイッチのようなものがあることに気が付いた。

 

 【連射モード】


(ん? ここでモードを変えられるのか)

 奥原はモードを切り替えた。しゃがみながら通路に目を向けると、牛が向かって来るので、身を半分乗り出しネイルガンを発射させた。


 パシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュッ!


 (うわっ、すっげー。ヤツのマシンガンとそんな大差ねぇじゃんか)

 牛は両腕で防御はしていたものの釘が腕や腹、脚に突き刺さった。この連射速度で撃たれたら普通の人間ならひとたまりもないだろうが、牛の体の筋肉は分厚く防弾チョッキのように硬いのだ。致命傷を負わせるのは難しいかもしれない。怯みはしたがそのままマシンガンをぶっ放してきた。


 ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダッ!

「くっ」

 奥原が背を付けている壁の側面や床に穴が空く。

 (威力は凄いけどこのモードで使いまくれば釘がすぐ消費しちまう。考えて使わないと‥‥、無くなったらまた取りに行けばいいか)

 奥原は牛に近づかれる前に全速力で園芸コーナーエリアに向かって走った。



 ~ダイドーホームセンター内部見取り図イメージ~

・連絡通路を出ると、まっすぐ中央通路が広がる。

・連絡通路を出るとすぐに、お会計レジスペースとサッカー台がある。

・連絡通路を出てにはガーデニングコーナー、DIY用品コーナー、木材コーナー、大型建築資材コーナー、中小規模建築資材コーナー、工具コーナーがある。

・連絡通路を出ては、季節物コーナー、作業用品コーナー、化粧品コーナー、日用品(洗剤など)コーナー、文房具コーナーと休憩スペース、インテリアコーナーがある。

・連絡通路を出ては、ベビー用品コーナー、キッチン用品コーナー、日用品(洗面所、バス、トイレなど)コーナー、玄関用品コーナー、家具家電コーナー、おもちゃコーナーがある。

・連絡通路出てには、アウトドア・釣具コーナー、レジャーコーナー、車用品コーナーがある。

 そして、2ヵ所の出入り口もある。この出入り口を出るとカーブした歩行スペースに出ることができ、国府達のSoCoモバイルイベントスペースにも行けるのだ。

・連絡通路出てには、ペット用品コーナー、害獣害虫対策コーナーが並んでおり、そして阿洲里忍者村コーナーがある。

 


(牛の歩く速度は速くない。移動速度は俺の方が上。多方面から釘を打ち込んでヤツの注意を逸らそう)

 奥原はそう思いながら、ガーデニングコーナーの商品棚に隠れて身を潜めた。棚から顔を半分出して、連絡通路から牛が出てくるのを見計らう。

 そして、入り口に大きな影が見えはじめ、ぬぅっと牛が出てきたのが見えた。じっと立ってぴたっと足を止めた。きょろきょろと辺りを見渡しているようだった。

 とその時、

 ドタッドタッドタッドタッドタッドタッドタッ!


 突如、牛は走り出したのだ。中央通路をずっと真っすぐ走ってどこかへ消えていった。

「え‥‥!あいつ走れんのかよっ!?」

 奥原は目を丸くした。

 たしかに、牛は第一波の時は走ることはなかった。終始のしのしっと歩きながらひたすらマシンガンを撃っていた。しかし、第二波の牛は走ることができるのだ。しかも速い。奥原は牛の姿を見て闘牛を想像した。

 体勢を少し低くしながら、牛が走っていった方向へ移動した。

 化粧品コーナーの棚の物陰に移動し、隠れながら牛の姿を目視しようと試みた。

 しかし、辺りを見渡してもどこにも牛の姿が見当たらない。奥原は牛を見失ってしまった。この広いホームセンター内だ。ひとりの相手を探すのは難しい。ただ、牛の走る時の地団駄のような足音は仮に走りながら攻められても、ある程度の距離感で気付くことができると思った。その時、


 ギー、ギー、ギー、ガシャンッ!

 ギー、ギー、ギー、ギー、ガシャンッ!!

 ギー、ギー、ギー、ガシャアァァァァン、ガシャアァァァァン!!


 (なんだ? 何の音だ!?)

 忍者村コーナーや車用品コーナーの方から、鼓膜を針で突き刺すような嫌な音が響き渡った。奥原のいる位置からはその音の正体はわからなかった。


 ドタッドタッドタッドタッドタッドタッドタッ‥‥

 牛の走る足音がまた聞こえた。アウトドア・釣具コーナーの方へ移動したようだ。


 そしてまた耳障りな音が響き出した。

 ギー、ギー、ギー、ガシャンッ!

 ギー、ギー、ギー、ギー、ガシャンッ!!

 ギー、ギー、ギー、ガシャアァァァァン、ガシャアァァァァン!! 


 (何をやってるって言うんだ!?‥‥)


 ガシャアァァァァン、ガシャアァァァァン!! 


 連絡通路の出入り口の方からとてつもない音が響き渡ってきた。

 奥原は遠目にその光景を見た時、ぞっとして鳥肌が立った。ようやく牛が何をやっていたのか理解できた。

 牛は両腕で商品棚を持ち上げ、連絡通路の出入り口に重ねるように次々と置いている。

 (牛の野郎、出入り口を塞いでやがるのか‥‥。にしてもなんていう怪力なんだ)

 奥原はその隙に最初に音がした忍者村コーナーの方に移動して確認しに行った。

「やはりな‥‥」

 出入口が商品棚でガチガチに塞がれていた。そして、もう一方の出入り口も同じ状態だった。

「完全に俺を閉じ込めたということか」


 牛は連絡通路の出入り口を完全に塞いだ後、周囲を見渡し始めた。事実上ホームセンター内を密室状態へ変貌させた次にやる事といえばただひとつ。奥原を殺すことだ。

 ホームセンター内は、逃げ道の無い本物のサバイバルゲームのフィールドと化したのだ。


 のしっ、のしっ、のしっ、のしっ、のしっ、のしっ、のしっ

 牛は中央通路を歩き始めた。首を左右に動かしながら奥原を探している。

 奥原は玄関用品コーナーの棚に身を潜めながら、釘を打ち込む機会を待った。牛の足音が近づいてくる。

 そして牛がキッチン用品コーナーの棚を通り過ぎ、牛の姿を捉えることができたその時、奥原は片膝をついてネイルガンを発射させた。

 

 パシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュッ


 のそのそと歩いてきた牛に命中した。首や頭にも釘が突き刺さった。

「うぅぅぅぅ‥‥」


 ダダダダダダダダダダダダダダダダダッ!


 すぐさま牛はマシンガンで反撃してきた。

「くっ‥‥」(頭にも命中させたのに平気なのか!?)

 奥原はそう思いながら、隣のバス・トイレ用品の棚に前転しながら回避した。


 ドタッドタッドタッドタッドタッドタッ!

 牛は走って奥原の隠れた場所へ向かってきた。奥原は牛の足音で走ってこちらに向かって来るとすぐに察知し、DIY用品コーナーの方に向かって全力で走り、中央通路を超えていった。牛は奥原の走って逃げていく姿を捉え、奥原の背中に向かってマシンガンをぶっ放した。

(走るスピードなら負けねぇよ)

 

 ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダッ!


 細かなマシンガンの弾が商品棚や工具に当たり火花を散らす。奥原はダイブするようにDIY用品コーナーの陰に回避した。弾は奥原の茶色いコートの裾を貫通した。

(今のは危なかった。1秒でも遅かったら完全に撃たれてた。にしてもヤツの移動速度が上がってる!?)

 牛は中央通路のど真ん中に立ちながら天井に目を向けている。


 ガシャン、カチャ‥‥‥。牛はマガジンを入れ替えた。


 奥原は物陰から少し顔を出して様子を窺っていた。

(何やってんだ? あいつ‥‥)

 そう思っていた次の瞬間、

 ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダッ!


 牛は天井の照明に向かってマシンガンをぶっ放した。


 ガシャシャシャン、バリバリバリバリ、ガシャアァァァァン、バリバリバリバリバリ、ガシャシャシャシャシャシャシャン!!


 無数の照明の破片が大雨のように降ってきた。奥原は息を呑んだ。

「なんだよ! クソッ」

 奥原の顔や手には小さな切り傷が付いた。牛は商品棚に隠れながら反撃して来る奥原を隠れ蓑から引きずり出すため広範囲攻撃を行ったのだ。


 ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ

 牛は撃つのを止めない。奥原が隠れている範囲の照明を全て壊し、さらに照明の外枠も外れて落ちていく。

 奥原はコートを被るようにして頭や顔を守ろうとした。この場所から退避しようと時、

 ドガッ‥‥、ガシャン‥‥。

「うっ!」

 背中に激痛が走った。照明の外枠が背中に落ちてきてぶつかってしまった。コートで顔を覆っていたせいで視界が狭くなってしまい見えなかった。

「あぁぁぁっ!」

 奥原は背中の痛みを堪えて、今いる場所から退避し走った。


 パシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュッ!

「うぅぅぅぅ‥‥」

 天井に向かってマシンガンを連射している牛に目掛け、走りながらネイルガンで反撃する。

 ダダダダダダダダダダダダダダダッ!

 牛の攻撃を上手く回避して、そのまま家具・家電コーナーへ逃げ込んだ。

 牛も体のいたる所に釘が突き刺さり、ぽたぽたと血を流している。致命傷とはいかないが、じわじわと効いているのは確かだろう。

(このまま逃げ続けていられるのも時間の問題だな。こっちの体力がもたなくなる前に致命傷を与えなければられる‥‥)

 奥原はそう考えながら空っぽになったネイルガンに新しいロール釘を仕込む。


「ふしゅぅぅぅぅぅぅううう‥‥‥」

 牛はまるで遊びはここまでだと言わんばかりに大きな溜息をついた。そして、左手でレインコートをぎゅっと掴み、びりびりびりっと引き裂きながら脱いだのだ。突き刺さっていた釘も数本パラパラと抜け落ち上半身が露になった。肌の色は茶黒く、所々に傷跡がある。引き締まった筋肉が一層目立ち、逆三角形な上半身をしている。さらに背中に何かを背負っているのだ。奥原の目にはそれが何かはわからなかった。

 奥原は、商品棚の隙間からじっと息を殺しながら眺めていたが、牛の様子が一変し殺気が体中から滲み出ているのを感じた。一筋の汗が頬を流れる。


 牛は一気にかたを付けるつもりだ。



第44話 【奥原戦 後編】へ続く・・・。

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