第32話 神矢との約束
(HOELオフィス内)
藤原がオフィスに着いたのは9時30分を過ぎた頃だった。デスクに腰を下ろし、すぐさま神矢に電話をした。
プルルルル、、プルルルル、、プルルルル、、プルルルル、、プルルルル、、、
(繋がらないか‥‥‥なにやってんだよ、神矢さん‥‥)
そう思いながら電話を切った。
神矢から折り返し電話がかかってきたのはその15分後のことだ。
藤原はちょうどオフィスを出ようとしていたところだった。手提げ
「はい、藤原です。かみ‥‥、」
「藤原さん、電話の要件はわかってます。ダイドーの件ですね‥‥‥」
神矢は藤原の言葉を遮るようにして言った。
「えぇそうです。神矢さん、今どちらにいらっしゃいますか? お伺いしたいことがございます」
「今東京です。さきほど本社で大事な会議がありまして‥‥‥」
「そうだったんですか。単刀直入に申し上げます。今ダイドーがどういう状況なのかご存じですね?」
藤原は顔を
「‥‥‥‥‥‥‥」(はぁ‥‥はぁ‥‥)
神矢は黙り込み、受話口から神矢の荒い呼吸音が聞こえてきた。
「神矢さん、教えてください。今ダイドーに何が起こっているのか。営業すらできていないですよね? うちの社員が閉じ込められているかもしれないんですよ」
「あ、いや‥‥、俺は何もわからないんだ‥‥‥申し訳ない」
神矢は言葉を濁らせる。
「ホームページを見ても一時営業停止となっている。私はそのようなこと聞いておりませんし、店内にも入れなかった。さらにうちの社員や浅川店長ともずっと音信不通なんです」
「俺は‥‥‥何も知ら、、、」
「神矢さん! 北部エリア統括の神矢さんが何も知らないわけがないじゃないですか!」
藤原は強い口調で神矢の言葉を遮った。
「‥‥‥‥‥‥‥」(はぁ‥‥はぁ‥‥)
「会って説明していただけませんか。神矢さんにはその義務があるはずです」
「‥‥今本社を出たばかりだ。11時の便で戻る。14時に白都支社で待っている。来れるか?」
「えぇ伺います」
「だが、もう何を聞いても手遅れだ‥‥。俺は自分の非力さを思い知らされた‥‥‥」
いつもの神矢ではない。声が重たく、何かに怯えているような感じがした。
「どういうことですか?」
「もう手遅れなんだよ‥‥‥隠していてもしょうがない。誰もあのお方を止めることはできないよ。いくら藤原さんでもな」
神矢の声が少し震えているようにも聞こえた。
「神矢さん、話の意図がつかめません。手遅れって何のことですか!? 何か私にできることがあれば―――」
「無駄だ。藤原さん、あまりこの件に首を突っ込まない方が良い。最悪の場合‥‥‥」
神矢は藤原の言葉を遮るが何かぎこちない。
やはり何かに怯えているのは間違いない。藤原はそう思った。
「最悪の場合って?」
藤原は訊き返す。
「まぁいい。あとは白都支社で話すよ。いいか。ひとりで来るんだ。他言無用だ。約束してくれ。もし破ったらもう二度と俺には会えないと思ってくれ‥‥」
「わかりました。必ず約束は守ります」
「じゃあ、あとでな」
そう言って神矢は電話を切った。藤原はゆっくりとスマホを耳から離した。
藤原は神矢がこのスーパーダイドーの不可解な事態に関係しているのは間違いないと確信した。
しかし、どうして初めは『知らない』なんて嘘をついたのだろうか。神矢とのその後の会話もわからないことだらけだった。
―――『手遅れ、あのお方、首を突っ込むな』
一体どういうことなのだろうか。本当に自分の推測が当たっているのか、それとも、もっと想像もできないような事態が起こっているのか、考えていてもキリが無かった。
(全てを聞き出してやる)
藤原はそう決心した。その後すぐに友里恵に電話をかけた。
プルルルル、、プルルルル、、プルルルル、、
「はい。国府です」
「おはようございます。友里恵さん」
「おはようございます」
「昨日少しは休めましたか?」
「あ、はい。夜中に何回か目を覚ましてしまいましたが、多少は‥‥‥」
「まぁ、そうですよね。不安は消えませんよね。変なこと聞いて申し訳ないです」
「いいんです。昨日の藤原さんとの電話で少しは気持ちが楽になったのは事実ですから」
友里恵は力の無い声で言った。
「ありがとうございます。そこでなんですが、今日の午後にスーパーダイドーの責任者に会うことになりました。今ダイドーで何が起こっているのか突き止めるつもりです」
「そうなんですか」
「えぇ、そこで友里恵さんにお願いがあります」
「はい」
「ご不安かと思いますが、私が動き終わるまでスーパーダイドーには絶対に近づかないで頂きたいのです」
「え、あ‥‥‥やっぱり何かあったんですね?」
「はい。非常に危険なことが起こっているのは間違いありません。今は私が国府さんに代わってあなたを守りたいのです。ここは私を信じていただきたい」
詳しいことは一切不明だが、危険なことが迫っていることは間違いないという確信からそう伝えた。
「わかりました。夫のこと、どうかよろしくお願いします」
「えぇ。また状況がわかり次第ご連絡しますね」
藤原はそう言って電話を切った。
(神矢に他言無用と言われたが、友里恵さんになら大丈夫だろう。それより神矢に会うまでまだ時間がある。まずスーパーダイドーに行ってみるか)
時刻は10時15分。
藤原は喫煙所にいき、タバコに火をつけた。藤原にとって決戦前の一服だった。
第33話へ続く・・・。
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