第27話 殺戮 —サツリク— ⑥
八城が大きく手を振っている。
隣に知らない女性が一緒にいるのが見えた。
「八城さんっ!」
国府達は叫んだ。
「国府さん達のイベント会場に集合しましょう! 僕らもすぐに向かいます」
八城は合流することを提案した。
「了解しましたっ」
国府は八城が生きていたことがわかり、沸騰したかのように安堵感が湧き上がってきた。
「八城さん生きてたぁ! 良かったぁ」
宗宮は今にも泣き出しそうな勢いでそう言った。海藤もこくこくと黙って首を縦に振っていた。
「まじで良かったな! とりあえず広場に戻ろう!」
棚橋も宗宮と同じ心境だった。
『はい!』 3人は勢いよく返事した。
♢
国府達がイベントスペースに行くと、すでに柱の所に八城と女性ひとりが立って待っていた。
「八城さんっ! 無事だったんですね!」
国府は駆け寄りそう言った。
「えぇ何とか。皆さんも無事で良かったです」
八城はにこっと笑みを零した。
国府はこんな状況でも笑顔を作れる八城を見て、この人はどんな精神をしてるんだろう、と思った。
「怪我はありませんか?」
八城は皆を心配した。
「えぇ、僕ら4人は平気です」
棚橋は答えた。八城はその言葉を聞いて安心した。
「八城さん、こちらの女性は?」
国府は訊いた。
「こちらは阿古谷 唯さんです。少林少女とでも言っておきましょうか」
「阿古谷 唯です。よろしく」
阿古谷はぺこりと小さく頭を下げた。
「しょ…少林少女!?」
宗宮は目を丸くしながら言った。国府達も関心の眼差しを阿古谷に向ける。
「えっ、まぁ、別にそんな大したあれではないんだけどね……」
阿古谷は目を逸らして少し照れながらそう言った。
「ちょっと、少林少女って言い方やめてよ」と阿古谷は八城にコソコソ話する素振りで言った。
「だってほんとのことじゃないですか」と八城は手を口元に添えながら言い返した。阿古谷は少しムッ、としている。
「阿古谷さんはとても強い方です。あの兎マスクと一対一で闘ってましたからね」
『えー!』
国府達は大きく口を開けながら驚いた。
「え、闘ってたってどういうこと!? あんな化け物と!?」
宗宮は目ん玉が飛び出しそうになっていた。
「そのまんまの意味ですよ。あの兎マスクを蹴り飛ばしてました。ねっ、阿古谷さん」
八城は阿古谷に顔を向けながら言った。阿古谷は、ふんっ、と顔を背けた。
「うそでしょ‥‥、すごっ」
宗宮は驚きを隠せない様子で言った。国府達も、ぽかーんという表情をしていた。
「やられたらやり返すのが普通でしょ? 逃げられちゃったけどね。でもまたヤツラがいつ現れてもおかしくないよね?」
「まぁ、恐らくですが当分出てこないでしょう」
八城は真顔でそう答えた。
「え? なんでそう言えるんですか?」
棚橋は咄嗟に質問した。
「後で話しますよ」
「あのさ、この人達は?」
阿古谷は八城に訊いた。
「あぁ、すみません。ここでイベントをやっていたSoCoモバイルショップの方々で、僕が合流したかった人達です。色々な流れで手を組むことになりました」
「あ~! やってたね。あの時ティッシュ受け取らなかったわ。ごめんね」
阿古谷は掌を合わせながらそう言った。
「いえいえ、慣れてるので大丈夫ですよ」
国府は言った。
「阿古谷さんはヤツラのこと恐くなかったんですか?」
海藤は恐る恐る訊いた。
「恐怖心はあったよ。でもやるしかなかった」
「阿古谷さんの拳法は本物です。動きも忍者みたいでした。味方としてかなり心強いですよ」
八城は言った。
「まぁまた現れたら次こそは逃がさないしぶっ飛ばす。あ、話変わるけど、この人医者ってほんと?」
阿古谷は八城を指差しながら、疑いの眼差しを国府達に向けた。
「ほんとですよー。まぁヘンタイ精神科医ですけどー。阿古谷さんも心の中を見透かされないように気を付けた方が良いよー」
宗宮は目を細めながらそう言った。
「精神科、医!? え?」
阿古谷は八城を二度見した。
「いやだなぁ宗宮さん、ヘンタイだなんて滅相も無い。僕はただの優しい心のお医者さんですよ」
宗宮はえ~と声を洩らしていた。
「でも八城さんの存在は僕らの中ではでかいですよ」海藤は言った。
「そう言ってもらえて光栄ですよ海藤さん。棚橋さんもよく3人を守り抜きましたね。素晴らしいことです。あの状況下です。誰が殺されてもおかしくなかったですから」
八城は感心して言った。
「あ、いえ、命を投げうってでも守る気持ちでしたから」
棚橋は少し照れ臭そうにそう言った。
「その意気です。さぁ自己紹介はこのくらいにして、対策を考えなければなりませんね。僕からも色々とお伝えしたいこともあります。ただ、その前にまだ役者が揃っていません」
八城はパーカーのポケットに両手を入れながらそう言った。
「鮫島さん‥‥‥」
国府は口から微かに言葉が漏れるように呟いた。
棚橋、海藤、宗宮は俯いた。
鮫島があの惨劇に巻き込まれて殺されたのではないか、という懸念が脳裏に渦巻く。
「みんなの表情から今思っていることが手に取るようにわかりますが、彼なら絶対生きています。ここで死ぬような玉ではありません」
「そうだといいですけど」
海藤は顔を上げて八城に訊いた。
「もう少し待ってみましょうか」
そう言って八城はイベントスペース入口前のカーブしている歩行スペースに出て、周囲をを見渡した。
第28話へ続く・・・。
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