第26話 殺戮 —サツリク— ⑤


(一方ホームセンター内では……)


 牛と山羊は通路を通過しホームセンター内に侵入してきたところだった。


 ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダッ


 ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダッ


 牛はすぐさまマシンガンをぶっ放してきた。

『うわぁぁ…』

『ぐはっ』

『うぅ…』


 ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダッ


 ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダッ


 おどおど隠れる場所を探していた客達や従業員に弾が、命中し次々と殺されていった。

 山羊は牛の隣で大鎌を担ぎながらじっと動かずに立っている。


 国府達はずっと奥の方にあるDIY資材コーナーに身を潜めていたので牛の弾があたる距離にはいなかったが、4人とも警戒して頭を低く下げていた。

「え! なになになに!?」

 宗宮は狼狽した。身体が震えている。


「とうとうここまで来やがったか」

 海藤も唇を噛む。


「むやみに逃げても殺されるだけです」と国府。


「ヤツラがここまで来た時は俺が必ず3人を守る。何があっても」

 棚橋の顔はまるで覚悟を決めたかのような難しい表情をしていた。


 国府達3人は棚橋の方を見る。国府も、まさか無茶だけはしないよな、と心配した。


 カシャン、

 ガチャッ

 牛は空になったマガジンを捨て、レインコートの内側から新しいマガジンを取り出しセットした。

 マシンガンの銃口を向けたその時、ぴたっ、と動きを止めた。


 ふぅぅぅぅ、ふぅぅぅぅ、ふぅぅぅぅ‥‥‥、、、


 牛と山羊は呼吸音が荒い。


 のしっ、のしっ、のしっ、のしっ、のしっ、


 先ほど通ってきた連絡通路へ立ち去っていった。


 馬もホームセンター入口に向かって歩行スペースを進行中だったが、ぴたりと動きを止めた。

 

 ふぅぅぅぅうぅぅぅ‥‥‥、うぅぅぅ、、、、


 馬は急に呼吸を荒くした。

 マスクの鼻孔びこうから大きな溜息のような呼吸音が漏れる。そして、方向転換してゆっくりと来た道を戻っていき姿を消した。



 ♢



 国府達は身を潜めたまま5分が経過した。

 周囲から何も音が聞こえなくなった。あのずっと鳴り響いていたマシンガンの連射音でさえぴたっと止まったのだ。辺りはシーンッと静まり返っていた。


「……ねぇ、なんか急に静かになったよね」

 宗宮は海藤の顔を見ながらコソコソと話をかけた。

「確かに。ヤツラの気配は消えたみたいだな」


 国府はきょろきょろしながら少し頭を上げて周囲を窺った。

 さっきまで散々無差別に人を殺しまくっていたヤツラの気配がまったくと言っていいほどしないのだ。

「……誰も、いませんね」

「うん。大丈夫みたいだな」

 棚橋も下げていた頭を上げながらそう言った。

「えぇー、ほんとに大丈夫ですかぁ? どっかに潜んでたりとかしないですか?」

 宗宮はまだ少しぶるぶると震えながら疑う。


 国府も海藤も立ち上がった。


「あれだけいた他の客達もいない‥‥‥」

 国府は唖然とした。

「皆犠牲になったんでしょう」

 海藤は両手の拳を強く握った。


「これ現実‥‥なのか」

 棚橋は目の前の光景を夢であって欲しい、そう思った。


「もう受け入れるしかありませんよね」

 海藤は絶望しているかのようにそう言った。


「はぁー、もう色々疲れたぁー。あたし耐えられそうにないー」

 そう言いながら宗宮は床に大の字で横たわった。


「これは大事件ですね。なんとしても公表すべき事態です」

 国府が言った。


「まず外に出られないと公表できませんね。対策を考えましょう。ほら、宗宮も起きろって」

 と海藤はすでに気持ちを切り替えてようとしている。はぁーい、と宗宮も立ち上がる。


「一旦周囲の確認をしにいこう」

 棚橋は先陣をきった。



 国府達は固まって周囲を警戒しながらダイドー内を歩いた。


 4人は歩行スペースに出て、ちょうどカーブしているところまで来た。昨日まで普通に何事もなく開催していたイベントスペースの場所を覗き込んだ。

 自分達のショップから持ってきた荷物もぐちゃぐちゃにされていることや、ガラスブロックの壁には飛び散った血痕がべっとりと付着している。このイベントスペースでも逃げ回った客達が殺されたのだと痛感した。

 そのままカーブした歩行スペースを右に曲がり真っすぐ西側を進んでいくと、その広い歩行スペースの床にもたくさんの血だまりや、あちらこちらに飛び散った血が付着していた。


 中央辺りまで歩くと、2階フロアまで上がれるエスカレーターがあるが、壁には斬られたような傷や穴が開いていた。

 馬がつけた刀傷だとすぐにわかった。刀で突き刺されたような穴傷のすぐ下にも血だまりができていた。恐らく、誰かがここで刀で串刺しにでもされたのだろう。

 さらに床には数えきれないほどの薬莢も散らばっている。

(途中まで馬と牛は一緒に行動していたのか‥‥‥)


 そしてスーパーの方に目をやると、陳列棚は一部ぐしゃぐしゃに倒されてるところがあったり、商品が散乱している。自動で開閉する柵はズタズタに破壊されている。

 フードコートまで歩いていくと、フリースペース内のテーブルや椅子もめちゃくちゃに倒されていた。カオスとはまさにこのことを言うのだろう。


 受け入れがたい悲惨な状況を目の当たりにして、宗宮が口を開いた。

「ねぇ、さっきから思ってたんだけど、殺された人達ってどこいっちゃったの‥‥?」


「それ、俺も同じこと思ってた」

 と海藤。

「死体が無いのはおかしいですね。あれだけたくさんの客が殺されたというのに。最初に馬に斬られた男の子達の死体も無くなってる」

 国府もこの状況に対して腑に落ちない様子だ。

 何か変だ、違和感しかない、そう思った。


「こっちにも死体はないな。床や壁にはすごい血の痕だ」

 棚橋はスーパーの柵を少し通過し周囲を見渡しながらそう言った。

「生存者らしき人もいないみたいです……。まさか、僕ら以外全員殺されたんですかね!?」

 国府は驚愕な表情を浮かべた。


「そんなっ! 鮫島さんや八城さんも!?」

 宗宮は言った。



 と、その時‥‥‥、

「おぉーい! 国府さん達ー!」

 2階フロアから声がした。国府達は、「え!?」と驚いた顔で2階フロアに目を向ける。


 柵から男女ふたりが国府達のいる歩行スペースを見下ろしていた。




第27話へ続く・・・。

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