第23話 殺戮 —サツリク— ②
山羊はスーパー内の入口である自動開閉する仕切りを通過した後立ち止まり、周囲を見渡している。
客達はこの広々としたスーパー内で、5体の殺人鬼達から距離を取ろうと悲鳴をあげながら必死に遠くへ、遠くへと逃げていく。
人の逃げる速さは個人差が出るものだ。
老人や体の不自由な身障者は、逃げるのが遅いのは当然のことである。
また子連れの親は子供の手を引いたり、抱きかかえながら逃げる。こういう人達も逃げる速さは遅くなってしまうだろう。
そして、山羊はまるで今から殺す人間を品定めしているかのように、客達の逃げる速度を熟慮しながら歩き始めた。
前方に70代くらいの老夫婦が逃げていくのが視界に入った。
夫は足が不自由で走ることができない様子だ。妻は夫に肩を貸しながら少しでも遠くへ逃げようと早歩きで逃げる。
『あなたっ! もう少し早くっ!!』、とその時、
グザッ‥‥‥‥
『え‥‥‥』
妻は夫の胸から刃が大きく貫通し、大量の血が床に向かって噴き出しているのが見えた。
夫は、『ぐふぅっ‥‥‥』と吐血しながら声を漏らし動かなくなった。
『あなたぁ!? あなたぁぁぁ!?』
妻は全身の血液が冷たくなるような感覚になった。
そして、夫の腕は妻の肩から離れ、足先から血を滴らせながら宙に浮かんだ。手足が、だらん、とぶら下がっている。夫の姿を見て血の気が引いた。
山羊は、夫を背中から大鎌で貫いたまま上に持ち上げている。
妻はその光景を見上げながら、腰から崩れ落ちた。
『あぁ‥‥、あぁ‥‥』
と顎をガクガクさせて下半身に生温かさを感じた。妻はあまりの恐怖に失禁してしまった。
『この、悪魔っ‥‥‥‥』
妻は涙を流し、山羊を睨みつけながら振り絞った声でそう言った。
山羊は夫を突き刺した大鎌をそのまま妻に大きく振り下ろした。
グザッ‥‥‥!!
夫の胸から突き出ている大鎌が妻の首元を貫いた。
妻の背中から刃が貫通した。大量の血が噴き出る。
山羊はふたりを貫いている大鎌をそのまま上に持ち上げる。大鎌から、ぽたぽた、と血が滴りマスクにかかる。その光景を遠くから見た客達は大きな悲鳴をあげている。
『きゃあああぁぁぁぁぁ‥‥‥‥‥!!』
山羊は大鎌を横に大きな半円を描くように振り払い、ぶおんっと遠心力で大鎌にぶら下がっていたふたりの老夫婦の遺体を、逃げる客達に向かって、投げ吹っ飛ばしてきた。
ふたりの遺体は逃げ惑う客達にぶつかり致命傷を負わせた。
『うぅ‥‥‥、う‥‥』
『いってぇぇぇ‥‥‥』
『嘘だろ‥‥』
殺した人間をまるで大砲の弾のように扱った山羊はまさに悪魔的だ。
吹っ飛ばされた老夫婦の遺体は、出血とバキバキに骨折し体の原型をとどめていなかった。
山羊はスイッチが切り替わったかのように突然動きを変えた。走りながら大鎌を振るい、逃げ回る客達に襲いかかった。
角に位置する総菜・弁当コーナーに何人も固まってしまい逃げ場を失っておどおどしているところを、山羊は大鎌で大振りし、まとめて切りつけた。
『うわぁぁぁ‥‥‥』
『きゃあぁぁぁぁ!』
『ぐぎゃあぁ、あぁぁぁ!』
数人脇腹を削がれ、肉片や内臓が飛び散る。弁当や総菜のパックに血飛沫が飛び散る。
大鎌の勢いで吹っ飛ばされた50代の男性客は、乳製品の陳列棚に勢いよくぶつかり気を失った。床にヨーグルトやチーズが散らばる。
山羊はまとめて一気に殺したのを確認し後ろを振り向いた。吹っ飛ばされた男性客がまだ息をしていることに気づき、頭を
『おーい! ホームセンターの方に避難するぞ! こっちだ!!』
スーパーとホームセンターは行き来できる連絡通路で繋がっているため、男性客のひとりがそう呼びかけた。
その男性客の声を聞いて、山羊はギロッとその連絡通路の方に視線を向ける。スーパー内にいた他の客達はホームセンターへ移動しようとした次の瞬間、
ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダッ‥‥‥、
ダダダダダダダダダダダダダダダダダダ‥‥‥、
ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダッ‥‥‥、
牛がもう一方の仕切りを通って、スーパー内にマシンガンをぶっ放しながら侵入してきた。
このもうひとつの自動開閉する仕切りは、歩行スペースの中央エスカレーター付近にあるが、ホームセンターへの連絡通路に近い仕切りなので、男性の呼びかけを聞いて、わざとここから入って来たのだろう。
牛はホームセンターへ逃げ込もうとする客達に向かってマシンガンを連射させた。
『ゔっ‥‥』
ぴくっ、ぴくっ、
『あぁ‥‥‥』
『がはっ‥‥‥』
『‥‥‥』
撃たれた客達が次々と血を流して倒れていく中、ベビーカーを押していた30代の女性は
ベビーカーの1歳くらい小さな子供はぎゃんぎゃん泣いている。
のしっ、のしっ、のしっ、のしっ、のしっ‥‥‥
牛はその女性に近づいていく。
『や、やめて‥‥‥。やだ‥‥‥。どうかこの子だけは‥‥‥許し…』
ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ‥‥‥
牛はその女性の命乞いを無下に断ち切るかのように、至近距離で女性の顔面と子供の腹に向かってマシンガンを連射し殺した。
さらに右を振り向いて、スーパー内東側にあるハクチョウドラッグストアに向かってマシンガンを連射した。
ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ‥‥‥
『うわぁぁぁ!!』
『がわぁぁ‥‥‥』
『うぅ‥‥‥』
ハクチョウドラッグストアで物陰に隠れていた薬剤師や登録販売員、客達は次々と打たれ殺された。
さらに貴重な薬や、絆創膏や包帯などの救急用品はズタズタにされた。床に商品が散乱し、消毒液や液体の薬やらが漏れ出ている。
グサッ、ジュバッ、グサッ、ジュバッ‥‥‥
馬は、歩行スペースの東側に向かって歩く。
逃げるのが遅い老人達は、次々と追いつかれ日本刀で斬られていく。
『アァ‥‥‥』
『うぅ‥‥‥う…』
80代老人も胸を日本刀で一直線に貫かれ、中央エスカレーターの壁に切先が突き刺さった。
男性の着ていた白のセーターは血で赤く染まっていく。
馬は素早く刀身を引き抜き血振りした。
ジャギン、ジャギン、ジャギン、シャッシャッ、シャキン‥‥‥
山羊は、スーパー内西側から走って襲ってくる。
大鎌の広い攻撃範囲で足が遅い客は餌食になっていく。
『あガァッ‥‥‥』
逃げる20代女性は、下から振り上げられた大鎌の刃先が、顎から後頭部に貫通した。
山羊はそのまま持ち上げ大鎌を右肩に担いだ。刃先にぶら下がるその女性は、まるで首つり死体のように手足をぶらんとさせている。
シャン、シャン、シャン、シャン、シャン‥‥‥、ガシャーン‥‥‥、シャン、シャン、シャン‥‥‥、
兎は2階100円ショップフロア内で暴れている。両手の10本の長い爪が、逃げ惑う客達の背中や腹を切り裂いていく。
『うわぁぁぁ!』
『ぐっふぁぁぁ‥‥』
ガッシャーン、ドカーンと陳列棚がなぎ倒されていく。
『邪魔だ! どけろぉ!!』
狼狽した客達は互いに押し合いぶつかり合った。
反動で飛ばされた客は、ドミノ倒しのように倒れ、棚の下敷きになる客もいた。
ピョーーーンッ
大きくジャンプして隣のゲームコーナーに一気に移動した。ゲームコーナーの物陰に隠れていた客達も見つかり全員切り刻まれて殺された。
そして、1階フロア西側フードコート付近の屋上駐車場へ繋がるエレベーターの前で、ずっと頭を、ぐるぐる、きょろきょろ、と動かしている挙動不審な最後の5体目がついに動き出そうとしていた。
第23話へ続く・・・。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます