第3話 宗宮 歩美、海藤 広大

(~ミーティングが終わった4人。ショップの扉を施錠して裏口から外へ出た~既に夜~)

 

 4人は薄手の上着を身に纏い、従業員入り口のところで固まった。

「うー、少し寒いなー。みんな暗いから気を付けて帰るんだよ」

 松江は3人に配慮しながら言った。

 幌平町は、10月に近づくに連れて気温がガクッと下がり冷え始める月でもある。ヒシヒシと冷たい風が、季節の代わり目をはっきりと教えてくれる。

 11月の終盤には雪がパラパラと降り始める。積雪量も多く、積もったらゴールデンウィークを迎えるまでは雪の塊が残っているくらいだ。


「お疲れ様でした」

 3人は同時に返答した。


「お疲れ様。ではでは」

 松江はボタンキーでセダンのロックをキュイッキュイッと開錠し愛車に乗り込んだ。3人は松江を見送る。

 松江はクラクションを少し鳴らし、帰路に立った。


「店長の車いつ見てもかっこいいですよねー」

 宗宮は目を光らせながらそう言った。


「ほら、2人は電車なんだから早く帰った帰った」

 棚橋は2人の電車を心配しながらそう言った。


「えー、棚橋さん家まで送ってくれないんですかー?」

 宗宮はわがままを言い出した。


「アホ、それは社内的にもNGだろー」

 海藤は冷静にツッコミを入れた。


「まー2人を送ってやりたいのは山々なんだが、俺が交通事故にでも遭って何かあったら責任問題だしな」


「そうそう。棚橋さん事故るかもしんないだろー」

 海藤は真顔で冗談をかました。


「おいおい、俺は安全運転世界一の男だぞ。ちゃんとゴールド免許なんだからなー」

 棚橋は笑いながらそう言った。


「いじわるー」

 宗宮は頬を少し膨らました。


「それは会社に言えっ」

 海藤はまたツッコミを入れる。


「ふたりは兄妹みたいだなー。はははは」

 棚橋はそう言い自分の車の方に目を向けた。

「いやいや、やめてくださいよー。そんなことないですよー」

 宗宮は思いきり手を仰ぐようにして言った。

「あははは。じゃ俺も帰るわー。2人とも気を付けて帰れよ」

 そう言って車に乗り込みエンジンをかけてゆっくり発進していった。


「お疲れ様でーす!」、「おつかれっすー」


「はぁ、じゃあ宗宮、途中まで一緒に帰ろうか」

 海藤がめずらしく宗宮を誘った。

「しょうがないなー、一緒に帰ってやるかー」

「何で上から目線?」


 ——海藤かいどう 広大こうだい——

 26歳。高校卒業と共に入社してきた今やベテランスタッフだ。常に冷静な性格。客のクレームにも動じずメンタルが強く、生まれつき薄っすら茶髪の青年だ。身長は172cm。口数は多い方ではないが、相手のボケには大体ツッコミを入れてくれる優しい面もある。


 ——宗宮そうみや 歩美あゆみ——

 24歳。肩ぐらいまである艶やかな茶髪のボブヘアーで、身長が155cmと小柄だ。明るい性格で、愛嬌の良さからよく客から指名もされる。営業や販売はそこまで得意ではないが、一生懸命商材の案内をする頑張り屋さんだ。

 海藤よりも1年後輩で、松江のショップの役職者に女性は絶対入れたいという考えからチーフに抜擢されたのは去年の話。海藤とは入社時期も近いのでほぼ同期のような関係だ。



「海藤君さ、ダイドーの件どう思う?」

 宗宮は歩きながら話始めた。

「どうって?」

「なんか緊張するなーって思ってさ」

「まー、いつも通りやればいんじゃないか? 数字ばかり考えてもつまらんし」

「あんな大きなイベントって今回が初じゃん? あたし固まっちゃうー。ガッチガチで動けないよー」

「いや、たぶん元気にやってると思うけど」

「えーそうかなー」

「うん、宗宮の事だからね」

「えーなになにー? 海藤君あたしの事そんなに知ってるわけー?」

「はー? そりゃ仕事での付き合いは長いからそれなりに知ってるだろ」

 海藤はいつも通り冷静に返す。

「まー確かにねー。あたしが新人の時はいつも助けてくれたもんねー。てか、あたしらもう何年くらいだっけー?」

「6年くらいじゃないか?」

「そーっかぁー。なんかあっという間だね」

「まーなー。確かにあっという間だ」

「なんかこうやって一緒に帰るのも滅多にないよねー」

「まーなー」

「ふふっ、海藤君『まーなー』ばっか!」

 宗宮は笑いながら言った。

「なんだよ、いいじゃんか」

 暗い道を車が2人の横を通り過ぎていく。タイヤがコンクリートをこすりながら走る音がよく響く。

「てかさ‥‥、海藤君って彼女とかいないの?」

 宗宮は変化球並みの質問をぶつけてきた。

「え!? なんだよ急に!」

 海藤は動揺を見せた。

「海藤君って口数少ないからさー、会社の飲み会でもたくさん話とかしてきたわけじゃないしー。そういうプライベートな話ってあまり聞かないからどうなのかなーって思ってー。ふふふ」

 宗宮は口を押さえてクスッと笑った。

「はー? 別に知る必要ないだろー」

 いつも冷静な海藤はめずらしく焦る。冷えた夜風が余計に火照る顔の熱を冷まそうとする。

「いいじゃんいいじゃん! 教えてよー! 教えてくれるまで電車に乗ってはいけませーん」

 宗宮はにやにやしながら問い詰める。

「なんでよっ。意味わかんねーなー」

「‥‥‥」

 宗宮はじーっと海藤の目を見ている。

「わーったよっ、いないよ! いーなーいー」

「ふ~ん。いないんだー」

「うん。だからなんだよー。そういう宗宮は彼氏とかいるのかよ」

「えっ! あたし? えー、おしえなーい」

「はー? なんだよ。俺だけ教え損じゃんかー。まーいいけど。興味ねーから」

「はー!? そこはあたしみたいに聞き返さないとー。海藤君ノリわるーい」

「あー、はいはい。悪かったよ。宗宮は付き合ってる人とかいるんですかー?」

 海藤は面倒くさそうな顔の頬を、赤くしながら質問した。

「へへへ。いないよ! いーなーいー」

「はぁ、同じじゃんか。てか俺のじゃべり方マネすんなし」

 海藤は何故か反射的に安堵した自分がいた。

「えーなになに、安心したの?」

「アホー、んなわけあるかっ」

 海藤は赤くしたを顔を背けた。

「つまんないのー。あ! やっと駅が見えてきたねー」

「お、おう」

「なんかさー‥‥、帰りたくないなぁ」

 宗宮は俯きながらそう呟いた。

「え、どうした急に」

 海藤は戸惑いを隠せなかった。

「でも明日も仕事だし帰らなくちゃだね。帰ろっか」

「は? え、あ、うん。そうだな」

「海藤君はどっち?」

「俺はこっちだよ」

 海藤は変える方向を指差して言った。

「あ、そうなんだー。あたしと反対方向だね。じゃあまた明日ね」

 宗宮はニコっと笑いながら言ったが、その笑顔はどこか切なそうにも見えた。

「うん、また明日な」


 宗宮は連絡通路の階段を上がり反対のホームにいった。

 すぐに宗宮の帰りの電車がきた。


≪1番ホーム電車が発車します。ご注意ください≫

 アナウンスが流れた。


 宗宮が車窓から手を振っていた。

 海藤も照れくさそうに手を振り返す。


「なんだったんだ。宗宮のやつ」

 海藤にとって異性とふたりっきりで会話する事は人生でほとんど無かったから、どこか照れ臭かった。


 海藤の電車も15分後に到着した。

 座席に腰を下ろし、スマホに目をやると宗宮からラインが入っていた。


『さっきは変な事聞いてごめんね(*^-^*)。別に深い意味は無いから。ただ、海藤君の冷静さを壊してみたくてきいただけだからww。なーんてね。今日はおつかれさまー。来月に向けてがんばろーねー。海藤君と同じイベント担当になれてあたしは仕事が楽しいのだぞ(^_^)/。えっへん』

 という内容だった。


 海藤は、誰もいない電車内で少し顔がほころんだ。



第4話へ続く・・・。

 


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