思い出の欠片


「ボクは青が好きだから、すっごくいい名前だと思う!」


(……!!)


その言葉を聞いた途端、ブルーの視界は明滅した。

蹲って頭を抱えるブルーに、ローズは驚き慌てながら声をかける。しかし、ローズの声はブルーには届いていなかった。


ブルーの頭には、痛みでなく、見知らぬ記憶が古いドラマのように褪せた色で流れていた。


──視点が今とそう変わらない。どうやら数年前の記憶らしい。場所は廃れた教会なのか、荒れていながらもステンドグラスやマリア像は健在だ。


そこに、黒く塗りつぶされた人影が、ブルーの手を引いてやって来た。どうやら、ブルーの友達らしい。

人影は、胸ポケットにガラスでできたバラを一輪差していた。


「青は好きなんだ。幸せだからな」


「しあわせ、?」


「青い鳥は幸せの象徴だろ?だから…」


この後に続く言葉が、ノイズで遮られる。スタンドグラスの光で青く色づいたバラ。褪せた色の中で美しく映えていたのが印象的で、そこで映像は途切れた──


「……だ、大丈夫か?」


「……うん。」


(なんだったんだろう、今の…)


心配するローズに、頷きながら、ブルーは立ち上がった。覚えのない、けれども既視感の

ある映像は、確かに自分の記憶なのだろう。


「…なにかあったら言ってくれ。なにもなくても言ってくれ。」


「うん。…ありがとう」


落ち着いて声をかけるローズだが、まだ動揺が残っていたようで、言ってることが纏まっていない。そんなローズの姿に、無意識に強張っていたブルーの顔が緩む。


「じゃあ、そろそろいくか」


「まって」


不思議そうにするローズ。ブルーは辺りに何かないか見回った。しかし、辺りには花や生け垣以外に何もなく、唯一大きく真っ白な時計が無造作に立て掛けられているのみ。


(…午前2時22分…)


秒針は22で止まり、一ミリも動かない。

この時計が正常に動いているのかはわからないが、とりあえず覚えておこうと、ブルーは思った。


「……もういいか?」


「うん」


「じゃ、行くか!」


少し心配そうな様子ではあるが、ローズはブルーにそう声をかけ、庭園の小道を道沿いに歩き出す。

ブルーは、少し考え込むが、振り切るように頭を振って、ローズの背中を追う。


ちらりと振り返った際に二人の居た場所に、一輪の透明な薔薇が横たわっていたのか印象的だった。

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