たそがれの花

シキ

はじまりの庭園

「……」



「……なぁ、おきろよ」


深く眠っているのか、起きる気配のない少女。

少年は悩む素振りを見せながら、巻いていた青いマフラーを少女の体に被せた。


「……」


「……そりゃ、そうだよな」


ポツリと呟いた少年は、少女のそばにどっかりと座り込み、少女を中心に広がる美しい庭園を眺めた。



少女が目を覚ますと、そこは大きな満月に照らされた、広大で、美しい庭園だった。

身を起こすとふわり、かけられていた青いマフラーが落ちる。


「……」


しばしぼーっとしたあと、ハッとしたようにマフラーを持ち上げ、辺りを見回す。すると、自分のそばで寝ている少年に気づいた。


「……」


躊躇いながら、そっと肩を叩く。

しかし、器用に座り込んだまま寝入る少年は、微かに身じろぐだけだ。


「ねぇ、起きて 」


「……ぐぅ」


イビキが返ってきた。

まじまじと少年を見つめる少女。

よく見ると、少年の顔は少し青ざめており、うっすらと目の下にくまが出来ていた。


(……眠れてない、のかな。)


もう少し寝かせてあげようか、迷った少女は、何度か悩んだ。しかし、胸騒ぎのようなものが沸いた少女は、結局少年を起こすことに決めた。


「起きて」


「ぐぅ…」


「──…!」


(え…なんで…?口から勝手に名前が…。)


無意識に口から出た名前に、驚く少女。しかし、その驚愕は何度も声をかけても起きなかった少年が、すんなり覚醒したことで霧散した。


「ぅう……ん?」


「!」


大きく伸びをしてくるりと辺りを見回す少年。少女と目が合うとキョトンとし、次の瞬間には嬉しそうに声をかけた。


「おはよう!…君が起きるのを待ってたはずなのに、寝てしまった」


気恥ずかしげに頬をかく少年は、気を取り直したように咳払いをする。


「とにかく、早く戻らないとな。」


「…あなたは、誰?」


「……」


「……」


痛いくらいの沈黙が二人の間を流れた。

固まった少年は、次いで考え込むように辺りをうろうろ歩き回り、最後に少女の前で頭を掻きだした。


「あーくそっ!…そうだよな、そう上手くいくわけないもんな」


悔しさと悲しさをない交ぜにした声でボソボソと独り言を漏らす。そんな少年に、少女は何か不味いことをしたのかと不安を抱いた。


「あの…」


「え、あ、すまない。えと、じゃあ自己紹介するよ。」


(気まずい…)


少年のぎこちなさに気まずさを覚えた少女だった。


「ボクはローズ!君を、元の場所に戻すためにここにいるんだ。」


「…そう、なんだ。」


「君の名前は?」


「…ブルー」


か細く、少しの嫌悪感をにじませながら少女は名前を答えた。


「ブルーか、いい名前だな!」


(…わざとらしいな)


少年─ローズは、明らかに少女─ブルーのことを知っている様子であったが、今知ったとばかりに振る舞う姿に、ブルーはジトリとした目を向ける。


「…えーと、その…名前を言うとき、なんで自信無さげだったんだ?」


視線に気づいたローズは、気まずそうにしながらもそう問いかけた。


「…ブルーって、良いイメージがないから。よく、人に言われてたの。」


「…」


ローズは黙ってブルーの話を聞いた。


「「あの子といると気分がブルーになる」って。」


そう言ったきり、うつむいたブルー。そんなブルーに、ローズの凛とした声がかけられた。

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