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はっ、はっ、はっ


 一人、剣を振るう。今朝の王の言葉に感化され、少しばかり昂った感情を抑える。心の乱れは剣の乱れ。あまり集中できずに剣を振るっていると、知らず知らずのうちに太陽がかなり登っていた。


 剣を振るうのを辞め、汗を拭う。


 何人かのダークエルフの同胞は、次の戦いに参戦しないと決めたらしい。


(軟弱者め……!)


 王に、村の危機を救ってもらったこと恩を仇で返すのかと憤る。実際は、村は別に危機に陥っていなかったので、彼女の勘違いではある。


「ジルヴィア、ここにいたか」


「王ではないですか、どうなさいましたか」


 今まさに考えていた人物が、目の前に現れドキリとする。


「ああ、実はな……」


 王が、顎に手を当て言い淀む。王がこのようにするのは珍しい。いつもの即決即断の王でも、次の戦いには少し迷いがあるのだろう。そんな人間らしい一面を見て、私も少しだけ悪戯心が芽生えた。


「王よ。良ければ、ひと稽古つけて下さいませんか?」

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