290

「俺は、しばらく戦う気はない」


魔王城跡地。


 といっても魔王城自体は魔王が暴れたため、ほとんど原型をとどめたままだ。被害にあったのは、城下町である。そんな魔王城を訪れ、魔王を訪ねた。


「まだ、先の傷が癒えていない」


 じっくりと魔王の体を見るが、傷らしい傷など見当たらない。


「心の傷だ。俺が、何年もかけて作った街を壊された心の傷が癒えていない」


「なにいってるんだ、お前」


 そもそも、あんなボロボロの放置されたような城下町を街だと言い張る、こいつの傲慢さ。要はこいつは、外に出たくないだけなのではないか。


 結局、魔王はその後の説得空しく、戦わないの一点張りのため諦める。長いこと生きていると、動くことが億劫になるのかもしれない。


(しかし、当てが外れたな)


 魔王が出てくれれば、戦力強化に一役買えたのだが。最近、こちらに逃げてきたドヴェルグ達も、どちらかといえば戦闘には消極的だ。魔物の中には時折こうして、人間との戦いに消極的な種族がいるらしい。


過去に、なにかあったのか。


戦うことに、意味を見出せないのか。


 どちらにせよ、戦力の補充は未だ十分ではない。


(まずいな……)


 最前線では今、人間側がかなり力を入れているらしい。少しずつ侵攻されている状況に、少しだけ焦りがでる。


 学術都市を落としたことで、人間側が本気でこちらを排除しに来ている。


 そして未だ、目的の人物は前線に現れない。


(お前は一体、いつになったら出てくるんだ……)


 未だ現れない待ち人に、苛つきが隠せなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る