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「怪我の具合はどうだ?」


 居酒屋のような洒落たものは、この拠点にはない。大きな小屋にテーブルを並べ、さながら大学の食堂のような場所で飯を食べることが多い。


 その一席に、ドヴェルグのバーヴォールが座っていたので声をかける。


「ああ、大分よくなったが、まだまだ本調子じゃねーな」


 今回、魔王城下町が襲われた関係で大分多くの魔物が移民してきた。その関係で食料は勿論、家の数の問題もある。移民を多く受け入れすぎるのも、問題が生じる。


 中には、バーヴォールのように怪我を負った魔物をおり、問題は山積みだ。


「そういえば、ドヴェルグって鍛冶が得意だったか」


「そうじゃ。我々ドヴェルグは鍛冶の才能に長けている者が多い。神から授かった才能じゃな」


 そういって、ドヴェルグは長い立派な髭をさする。


ドヴェルグ。


 別名ドワーフと呼ばれている彼らは、鍛冶や工芸の才能に長けている者が多い。神話の中では神が持っている様々な武器は、彼らが作ったとされている。実際、この世界は神ではなく精霊なので、どこまで前世の知識が当てはまるかはわからなかったが、予想通り彼らは鍛冶が得意らしい。


それは好都合だ。


「実は、こんなものがある」


「あ? なんじゃいこれは」


 彼が差し出したのは、木の枝。


「これは、世界樹の枝だ」


「ほう、これがあの世界樹か……ってなんだと!」


 先ほどまで、あんまり興味が無さそうだったバーヴォールの目が、クワッと見開く。


「馬鹿な! 世界樹の枝が折れたってことは、世界の終わりじゃねえか!」


「そんな逸話があるのか?」


「当たり前じゃ! 世界樹は、決して折れないことで有名じゃろうが!」


 そんなことを言われても知らない。そもそも人間と魔物の文化が違うため、どのように話が伝わっているかも齟齬があるだろう。魔物にとって世界樹は、決して折れることのない木として伝わっているようだ。


 バーヴォールに土の精霊と会ったことや、世界樹の意思で枝が折れたことを伝える。


「……そんなことあり得るのか? いや、しかし実際目の前にあるからそうなのか……」


「まあ、そんなことはどうでもいい。それであんたに、コレは加工できるのか?」


 今まで、作れる者がいなくて腐らせていた世界樹の枝。


「……分からん。少なくとも、俺の知り合いで世界樹を加工したことがあるものもいない」


 それはそうか。加工した経験があれば、世界の終わりだなんていうはずがない。


 まあ、どちらにせよ彼らが加工できなければ、ただの枝だ。


「それは渡しておくから、加工できそうなら槍にでも加工しておいてくれ」


「……まじかよ」


 彼は頭に手を当て、天を仰いだ。

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