283

 報告書では前線に残り、魔物を討伐すると書いた。


 だが実際は少しだけ違った。


 大事な相棒のベディを燃やされ怒り、その後の戦闘でもかなりの消耗をしてしまったため、正確にはあまり魔物討伐を積極的に行っていない。


「はあ……」


 片腕を失った人形をみて、少しだけ涙が出る。戦闘中に思わず口が悪くなってしまうくらいには、怒っていた。この人形は幼い時からずっと一緒にいたが、ここまでボロボロになったのは初めてだった。右手が無くなった後の戦闘でもかなり疲弊し、少し擦り切れている。


コンコン、と宿屋のドアがノックされる。


 いつまでも落ち込んではいられないので、気持ちを切り替えて対応をする。


「エッダ様、こちらはどうしましょうか」


 入ってきたのは、一緒に城下町まで行ったローレライのメンバーだった。


「これは……」


 彼女は私とドラゴンの戦闘が終わった後に、戦闘があった場所にいきドラゴンの鱗を拾っていたらしい。その赤い鱗は魔王を連想させ、人形の右腕を奪ったにっくき相手を連想させる。


クッ! あのドラゴンめ……


 今回は作戦上、継続的な戦闘が難しかった。次に会った時はギタギタにしてやると、心に誓う。


「もしよければ、こちらで人形の右手を補強してみてはどうですか?」


 正直、その提案はとても気が進まない。憎き相手の鱗を、人形の右手につけるのはどうなのだろうか。しかし、そんな感情の部分を言っていられない反面もある。ドラゴンの鱗をつけることで、人形は明らかに強化されるという実利的な一面もある。


「ぐぐぐ……仕方ありません。そうしましょう」


 その人形を見るたびに、自分の反省も思い出せる。次に会った時に万全な状態で挑むために、その提案をのんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る