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「なるほど、そんなことがあったのか……」


 拠点に戻り、なぜか両足を骨折していたバーヴォールがいたので状況を聞いていた。


 特徴を聞く限り、恐らく四芳姿のエッダだろう。


 勝手に戦争を始めた俺からすると、こうして巻き込んでしまった魔物に申し訳なくなる。


 だから、この拠点は好きなように使ってくれて構わないぞ。飯が足りない? それは自分で獲ってきてくれ。


「それで魔王と人間が戦って、両者傷を負ったため撤退したってわけか」


「そうじゃ。ついでにいうと我を失った魔王様が暴れたこともあって、辛うじて形を保っていた城下町も滅茶苦茶になったんじゃ」


 その時の状況を思い出して、ブルッと震えるバーヴォール。良かったな、巻き込まれなくて。


 しかし状況を聞くだけでは、やはり何故人間が魔王城を攻めたのかは分からない。確かに戦争において律儀に端っこの街から攻め込む必要はない。首都を落とせば人間の首脳陣を殺せるため、逆転の一手として狙うのはアリだ。魔物に攻め込まれている今、確かにその一手が決まれば確かに人間側に有利になる。そのあたりを狙ったのだろうか。


(戦略面で上をいかれたか?)


 戦術面で、ゴブリンだとどうしても負けてしまうことが多いので、今までいくつか戦略を駆使してなんとか戦ってきた。


 だがこうして戦略面でも戦われると、たちまち逆境になってしまう。


 学術都市を落とした勢いのまま攻め込みたかったが、相手の意図が読めない以上、迂闊に手を出せない。


「まずは情報収集だな」


 あちらにはなく、こちらにある利点が人間社会に溶け込める人材が多いことだ。何人か選出して、情報収集につとめるよう今後の方針を決めた。

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