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「たぶん殺せます!」


うん、俺が間違っているのかもしれない。


 フェンリルに跨りながら、妹は元気よく答えてくれた。


 前世より死が近いこの世界では、意外と同族の死を見慣れているのかもしれない。そもそも、魔物をあれだけ殺していたんだから、そこまで殺しに対して忌避感もないのだろう。


「そうだゾネ、買い物にいこうか」


「はい!」


 俺たちは、城下町へ向かう。


 魔物の街、といってもそう立派なものではない。魔物によって生態が違うため、人の街のように家の規格が揃っておらず、人の家と比べても遜色ないくらい立派なものもあれば、まるで災害があった後のように石壁しかない建物もある。だからこそ改めて実感するのは、ここは魔物の街だということ。


二人で服屋に向かう。


「お兄様、何か服を買うのですか?」


「ああ、俺たちはこれから人間を殺していくことになるから、なるべく顔が隠れるようなフード付きのものを買おうか」


「顔を隠す必要が、あるんですか?」


「そうだね」


 俺たちは、元人間だ。妹に至っては耳しか追加されていない。そんな魔物が、人間を殺したらどうなるか、考えなくても分かる。


(きっと標的にされる)


 人間を殺すことで恨まれることは仕方ないが、人間全体が敵になる事態は、強くなるまでは避けるべきだ。人間はもし同じ種族の魔物がいても、区別できない可能性が高い。ドヴェルグはドヴェルグなのだ、眼鏡をかけていようが個体判別は難しい。


「だけど俺たちは、ぱっと見、人間の要素が大分残っている」


 俺は竜人として人の要素を。妹は耳だけ。個体判別は余裕だろう。


「嫌かもしれないが、しばらくは我慢してくれ」


「全然問題ありません! お兄様とお揃いですし!」


 魔物の街の服は、あまり需要がないのか種類が多くなかった。結局二人とも、黒いフードつきのコートを選ぶことにした。


 なんだか厨二病全開のような服装になってしまった。

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