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 こんなにも心躍ることは久しぶりだった。男同士の意地のぶつかり合いのようなその戦いは、願うなら両手が万全の状態で戦いたかった。善戦した、とは言い難い。片手での戦いでもあり、圧倒的なレベル差もあった気がする。


結果からいうとアッサリ負けた。


「はっは、人間の小僧よ。強くなってから出直しな」


「ぐっ……」


 殺されなかっただけ、ありがたいだろうか。しかし俺の仮説は正しかったのかもしれない、魔物は人間が思うより『理性的』だということ。


「あんたらの崇拝する精霊はなんだ……?」


「……今の戦いに免じて、その質問には答えてやろう。ワシらの崇拝する精霊は、炎の精霊だ」


「やはりそうか……」


 仮説が、どこまで正しいか分からない。だけど今聞いた事実は、このクソッたれな運命を変えるために必要な情報だった。


「俺を、炎の精霊と会わせて欲しい」


「……人間の小僧よ。あまり傲慢なことを言うと、殺すぞ?」


 先ほどとは違う、本気の殺意がこもった言葉にゾクリとする。言葉を返そうとするが、これ以上の無礼な発言は本当に殺されかねない。


「人間の嬢ちゃんよ、そう殺意を向けるな。そもそも、炎の精霊はワシですら会ったことが無い。我々ですら会えない精霊に、人間が会わせてくれと言っておるんじゃ。流石に見過ごせん」


 ダメか……流石に準備が足りなすぎたか。あまりに話の分かる魔物と出会ったので、結果を焦ってしまった。


「そもそも、なんで精霊に会いたいんじゃ。お主らにも精霊がおるじゃろ」


「それは……」


『いいよ、会ってみようか』


 その声は、まるで頭の中に直接響いたように聞こえた。


『俺も少し興味があるよ、人間の男よ』


 その声は、炎の精霊だった。

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