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「そんなに落ち込むなら、思いを伝えればいいのに」
彼に未完成の時計を渡してから、家に帰った私は同室のコリンナに話を聞いてもらっていた。
「だって……」
きっとこのまま関係をズルズル続けていたらこの関係はずっと変わらない。
彼が大人で、私が子供。
もしそれが互いに愛しあっているなら問題ないという人もいるかもしれない。だけどこの世界に生きる女性の多くが、そんな関係を許せないと思う人間の方が多い。そして私もそう思う人間だった。
(せめて彼の隣に立てるくらいには成長しないと……)
彼女もまた、この男尊女卑の世界で生きている人間の思考に染まっていた。
「そういえば、あの未完成の時計を渡したんですね」
「うん」
きっとこの時計を完成させるには彼の言っていた天文学についても、もっと知識を深めないといけないだろう。それ以外にももっと摩耗しにくいパーツを作ったりとやらなければいけないことも多い。
とてもではないがそれらを全てを学びながら、彼に追いつくなんてことは数年で出来るかどうかすら怪しい。
だから
「時計を渡したのは、まるで彼と私が同じ時を刻んでると思えるから。私が成長する時を待っていて欲しい、私を置いていかないで欲しいっていう意味もある。その未完成の時計を見るたびに、彼はきっと私のことを思い出してくれるでしょ。勿論本当は完成するのが良かったけど、今となっては未完成の時計でもよかったのかもって思ってる。だってきっと彼なら、私が完成させるまで待ってくれると思うの」
「……そうですか」
きっと、きっといつか完璧な時計を完成させます。それまで何年かかるか分かりませんが、待っていて下さいね!
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