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「来週には首都に行ってしまうんですか?」
「ああ、ちょっと約束しててね」
それを告げたのが夕方頃だ。ずっと言わないととは思っていたが先延ばしにしていたことでもある。
もうすぐ首都では闘技大会がある。無視してもいいんだが、貴族に逆らうのもあまりよくない。ちょっと顔を出して1~2回戦でアッサリ負けてもいいだろう。
精霊に関しても少しだけ手掛かりがあった。かつて山岳地域の火山があった地域には別の種族が住んでいたという記述があったため、首都に行くついでに一度寄ってもおきたい。
「どうかな、時計の小型化は終わりそう?」
「いえ……どうしても1日ごとに数秒のズレが出てしまって……正確性に今のところ難があります」
時計のことはあまり詳しくないので正確なことは言えないが、研究が行き詰っているようだ。
なにか前世の知識を使ってアドバイスが出来ないだろうか……
「そもそも……自転の速さは一定じゃないはずだから、完璧に正確に出すのは難しいよね」
うるう年の計算もしないといけない。そもそも摩耗などで時計側が永久的に一定になることはない。前世ほど科学が発展した世界であっても時計の秒針のズレはあった。そう考えれば、完璧な時計なんて存在しないんじゃないかとも思う。
そんなことを思ったため、自分が知っている安易なアドバイスをしてしまった。
「……どういうことですか?」
「え、だから――」
「それってつまり、完璧に時を刻める時計は完成しないってことですよね!!」
ドンっ!
と、彼女が机を叩きながら立ち上がる。周りの視線がこちらに向いているが、それが気にならないくらいに彼女は動揺していた。
「それじゃあまるで、私たちが今やっていることが無意味みたいになってしまうじゃないですか!」
前世の知識を使って、安易にアドバイスをし過ぎてしまった。そもそもこの世界の天体は本当にうるう年があるのかすら知らないし、そもそも一日が24時間かどうかすらも怪しい。
今そこに向かって全力で立ち向かっている人に対して、そんなあやふやな情報を伝えるべきではなかった。
「っ――! 私は、その理論を認めることは出来ません……」
そういって彼女は席を離れていった。彼女の後姿を見送りながら落ち込む。
(ああ、やってしまった……)
いい所を見せようと、つい調子に乗って喋ってしまった。もっとよく考えて喋るべきだった。そもそも言葉足らずなのは前世からそうだった。それで前世の最期は妻に刺されたのに、そこから何も成長がない。
「……はあ」
帰って少し頭を冷やそう、そう思い帰路についた。
それから数日、彼女は図書館に現れなかった。
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