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 学術都市を離れる。その前日は雨が降っていた。雨は別に嫌いではなかったが、最近はあまり気分が乗らないので、少しだけ憂鬱な気分になる。


傘を差し、玄関を出る。


雨が強い。


 ふと、目の前に傘を差さずに立っている人物が見えた。


「……モニカ?」


 その女性は最近、図書館に顔を出していなかったモニカだった。


「おい、傘もささずに何してるんだ」


 急いで彼女のもとに向かい、自分が使っている傘を差しだし雨を防ぐ。


雨に濡れた髪が、彼女の頬に貼り付いている。


何時間立っていたのか、彼女の吐く息が白い。


数日寝ていないのか、目には隈があり具合が悪そうだ。


「ダメ……でした」


「え、なに?」


「すいません……どうしても完璧な時計を作ることができませんでした……」


「……とりあえず中に入ろうか」


 濡れた状態で話すことでもないだろう。彼女の手を取り強引に引っ張る。


 手は冷え切ってとても冷たかった。体を拭くものを私、暖炉に火をつける。暖炉近くに彼女を座らせる。


「それで……なにがあったんだ?」


彼女は下を向き、沈黙した。

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