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あー解放感がやべー。これはあれだ。テスト終わりの学生、就活が終わった就活生、仕事を辞めた会社員。そんな感じの解放感だ。


 地元の女から逃げることができた俺は、本拠地を街に移動した。俺に指示する人間もおらず、気ままな一人暮らしをしている。


(はは、今ならなんでもできそうな気がする)


 街をぶらぶら歩きながら考える。今までは村に縛り付けられていたので、いろいろと我慢していた部分も多かった。


 婚約から解放された。レベルも上がった、金もある。ならやることは一つだろう。


豪遊だ。


 街の主要道には、村とは比べ物にならないくらいの店が並んでいる。服屋、アクセサリー屋、靴屋、雑貨屋……あれ? 女ものの店ばっかりだな。


 よくよく目を凝らして探してみると、店の大体が女ものの品ぞろえとなっている。ほらみてあの服屋なんて男物服のコーナーが1ブロックだけしかないよ!


 でもよく考えて欲しい。この街は別に女が多いわけではない。門番やギルドの受付などは男がやっている。彼らはどこで物を買っているんだろう。ギルドの受付に聞いてみることにした。


 聞いたところによると街には工業地区というものがあるらしく、いわゆる加工をメインとしている二次産業が盛んな地区があるらしい。そこは街のメインからは外れたところにあり、そこで男物の商品が売っているそうだ。ほら、前世でも街中に工場なんてないだろ、そんな感じ。


おすすめされた店に行く。


『ひげ女の店』


やだなー行きたくないなー。でもいつもお世話になってるギルドの受付の人のおすすめだっていってたし、いくかー。


 重い足取りでドアを開ける。


「あら、いらっしゃい」


 そこには妖艶な美魔女が、チャイナ服のようなセクシードレスを着てキセルをふかしていた。


「え、あれ? ……あのギルドの受付の人におすすめされて来たんですが」


「あらぁ、それならこの店であってるわぁ」


 おかしい、こんな展開は予想していない。むしろ髭のおっさんが出てくるのを望んている自分がいた。


 店の品ぞろえも良かった。男心が分かっている品揃えで、私服を2~3着揃える。煙草は効果がないので、もう買わん。よく考えると装備や靴は父から貰ったものをずっと使っていたので、全て買い替えることにする。


「靴は大事よぉ、靴一つで踏ん張れる力が変わったりするから年齢が上がるたびに、ちゃんと買い替えたほうがいいわぁ」


喋り方に癖のあるお姉さんだ。


「防具は軽装、中装、重装とあるわ。冒険者で外をよく歩くお兄さんは中装あたりがいいんじゃないかしらぁ」


頭の装備はどうすればいいかな?


「フルフェイスをおすすめしたいけど、外での戦闘で視界が悪くなるのはおすすめしないわぁ。兜のタイプを被って、顔は面頬か、表情を隠すために布を巻くのが基本ねぇ」


ふんふん、他におすすめはありますか?


「マントは絶対に必須よぉ、かっこいいってのもあるけど防寒、防雨、防塵に最適よぅ」


武器のおすすめはありますか?


「メインの武器は使い慣れている武器をできるだけ長く使うのがいいわぁ。手入れもしっかりねぇ。予備の武器で短剣は買っておいた方がいいわぁ」


いやぁ買った買った。お金なくなっちゃったわー、でも満足できる品ぞろえだった。


「ちなみに私は男よぅ」


え?




「彼……いえ彼女は昔女性にひどい捨てられ方をしたそうで、それからおかしくなってしまって。自らが理想の女性になればいいんだ! といってああなりました。」


「それは……お気の毒に」


 世の中、色々あるんだなぁ

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