第8話 心の根底にある普段は気づかない不安みたいなもの

 妄想とリアルがごっちゃになった世界に、俺以外の人たちがすぐに馴染めたのは、自動的に『元からこういう世界だった』という認識になるから、らしい。


 俺は変な色の猫に出会ってたから元の記憶を失わないだけか、と納得していたら、


「ボクはなにもしていない。キミが『忘れたくない』って思ってるだけ」


 相変わらずの棒読み声で猫がつぶやいた。


 言われてみれば、こうも簡単に世界が変化していくのを目の当たりにし続けて、忘れるのはこわい、忘れたくない、と無意識に強く思っていた気がする。


 世界のぬりかわりに巻き込まれた人たちは、強制力もあるだろうし、『元からこんな世界だった』と思った方が心の負担が少ないんだろう。

 俺だって逆の立場だったら、流される自信しかない。


 自分ではどうしようもない大きな存在である世界を、いちいち疑ってかかるような暇も元気もないし、そもそも世界を疑おうなんて、猫に出会う前にだって思ったこともなかった。


 でも、どう認識しようとも、やっぱり俺以外の人たちも世界への不安みたいなものを抱いていたらしい。

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