第7話 願望が実現する世界


 あの瞬間から、人々の願いと不安が形を持つようになった。


「この街の平和は」

「「「わたしたちが守る!!!」」」


 カラフルな魔法少女たちがファンシーな敵と戦っている。


「よし、今だ!」

「行くぞ!」

「「ダブルアターック!!」」


 覆面ヒーローたちが悪を成敗している。


「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前! カーーッ!」

「あなたの罪を許しましょう」


 亡霊はなにがしかの宗教によって浄化される。


「こんな謎も解けないのかね?」

「こんなの一瞬で解いてやるさ!」


 明るい街では頭脳合戦が行われ、


「このことは誰にも秘密ですよ」

「我に切れぬものはない」


 暗い街ではダークヒーローが暗躍するようになった。


 さらには、ありとあらゆる神的存在や空想幻想生物まで空を舞い地をかけているので、派手というか。


「……もう、なにがなにやら」


「そう願ったのはキミでしょ」


 確かに俺は思ったよ。

 みんなも見えない腕を使えるようになればいい、と。

 俺と同じ苦労を味わえ、と。


 願いはかなったはずなのに、なんでか、俺より楽しそうに見えるから不思議だ。

 奇妙な世界に違和感なく溶け込んで、それぞれの希望をかなえている姿が心底うらやましい。


「キミも楽しめばいいのに」


「……」


 今なら文字通りなんにだってなれるのに、俺はなんで楽しめないんだろう。

 俺は相変わらず、俺の見えない腕がやらかしてしまうのをおそれて、誰かと言葉を交わすのもこわいし、関わり合いになるのもこわい。


 ひとつだけ良かったのは、世界に不思議生物があふれたから、変な色の猫と話すくらいじゃ目立たなくなったことで、いつでも猫と顔を合わせて話すことができる。


 ほとんどの人の肩か斜め上に、守護霊とか守護神とか天使とか悪魔とか妖怪とか妖精とかロボットとか宇宙生物とかがいるので、俺の肩に変な色の猫が乗っていて会話していても違和感さえない。


 しばらく過ごせば俺もこの世界に慣れて、みんなみたいに楽しく暮らせるようになるのかな。

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