第5話 二次元の主人公ってメンタル鋼なんだな

 結論からいうと、この生活に俺は耐えきれなかった。


 やり直せるとはいえ、誰かを死なせたり、酷い目にあわせたりしたあとに、何事もなかったみたいに振る舞うのはメンタルがガリガリ削れる。


 しかも、せっかくの彼女の反応がいちいち自分の想像通り過ぎて、彼女が作り物みたいに思えてきて、つい想像した通りに彼女が酷い目にあったのを見て、吐いた。


 タイムリープものでは、何百もの理不尽を越えて正解にたどり着くから、それが王道だとわかっているし、そうするべきだと思っている。

 でも俺は、吐くのに慣れてきたくらいに「俺がこの生活を続けるのは無理だ」と思ってしまった。


 猫は相変わらず感情の見えない声でいう。


「『そんな風にはならない』って思えばいいだけなんだけどなー」


 猫の言い分はわかるけど、できないんだ。


 できない理由もわかっている。

 他でもない俺自身が「彼女に相応しくないんじゃないか」と心の底で思っているから、周囲の声はなくならないし、周囲の声を聞くたびにダメージを受けてしまうんだって。


 自分の隠された本心みたいな周囲の声にイラッとするたびに、「気にしちゃダメだ」と自分に言い聞かせ続けるのは、正直しんどい。

 心の中で悪態あくたいついたり、一人の時間に叫んだり、理不尽さに文句いいながら枕を叩いたりしとかないとやってられない。


 とりあえずの対処法として、3秒位内に「今のナシ」と思えば即キャンセルできるようにしたけど。


 彼女の一挙一動にドギマギさせられたり嫉妬したりするのは、彼女のことを特別に思っているからなのに、うっかり変なことを思わないように気をつけなくちゃいけなくて、せっかくのドキドキも半減だ。


 だからといって心のままに思えば、彼女本人や周囲に危害がおよぶか、ひたすらキャンセルし続けなくちゃいけなくて、俺の精神がもたない。


 俺は彼女を、というか、恋愛をあきらめた。

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