06
その後警察を呼び、男たちは一斉に捕まり。
そうして非日常は終わりを告げ――俺たちには日常が戻ってきた。
*
日常が戻ってきた、のだが。
「ううう、男性怖い……怖いわ……」
「ああ、イケメン怖い……まじ怖いっす……」
雑貨店の開店前、ヨカさんと俺はそんな感じの言葉を漏らしながら、カウンターに突っ伏していた。
シフィアさんは俺たちの側で、右手に石ころを生んでいた。
「うーん、あのときの感情を形にしてみてるんですけど、石ころしか生まれませんね。石ころはヨカちゃんの専売特許だったはずなんですけどねー」
「わたしの専売特許じゃないわよ……」
ヨカさんの突っ込みには、どこか覇気がない。相当疲れているようだ。
「それにしても……シフィアさんって、めっちゃ強かったんすね」
「ん、ああ、そういえばラビトくんは知らなかったですね。実を言うとボクは、かなり戦闘能力が高いんですよ?」
シフィアさんはそう言って、可憐にウインクする。俺は心の中でこっそり、絶対にこの人を怒らせないようにしようと誓った。
「いやーそれはそうと、あれは歴史に残るダブルデートでしたね。多分ダブルデートをした人の中でも、トップクラスで酷い目にあったと思いますよ?」
「ほんとそうっすよね。いやはや、イケメンは怖いっす」
「おやおや、ラビトくんがイケメンアンチになっちゃいましたね。多分あの人は、イケメンの中でもトップクラスで酷いイケメンだと思いますけど」
シフィアさんはそう言いながら、カウンターに石を並べ始めた。
「あ、そうだ」
ヨカさんは顔を上げて、俺の方を見る。その表情がいつになく真剣だったから、俺は少しだけたじろいでしまう。
「ど、どうしたんすか?」
「その……あんたに、お礼言わなきゃと思ってたんだった」
「お礼? 何かしましたっけ、俺」
「その……あのとき、怒ってくれたじゃない。ふざけんな、って」
「ああ、そういえば……」
俺はそのときを思い出しながら、頷いた。
ヨカさんは、微笑んだ。どうしようもなく綺麗な微笑みだった。
「ありがとね、ラビト」
俺はその言葉を受けて、ゆっくりと頷いた。
シフィアさんは並べた石をつつきながら、にこっと笑う。
「だいじょぶですよ、ヨカちゃん。世の中にはラビトくんみたいに、優しい男性も沢山いるはずですから! ヨカちゃんは超素敵な女の子ですから、すぐにいい人が現れますよ?」
「うう、そうだといいな……ほんとに……!」
「という訳で、そろそろ開店時間です。まずは皆で、この石ころたちを片付けましょう!」
「えええ、あんたが勝手に生んだんでしょ!? 自分で片しなさいよ!」
「面倒くさいですー、手伝ってくださいよー」
「はあ、しょうがないわね……」
そんなやり取りに、俺たちはつい笑い合ってしまう。それから三人で、石を片付け始めた。
今回のデートは、悲しい感じで終わってしまったけれど。
でも多分、いつかは上手くいくだろう。俺は心の中でそう思っていた。
「あっ、見てください二人とも! この石、他のとは一味違う大きさですよー! 名前つけて可愛がりましょうか!」
「シーフィーアー!」
「あう、怒らないでくださいよー!」
二人のやり取りを、俺は困ったように笑いながら見ていた。
もうすぐ始まる感情雑貨店グレーテアは、今日も賑やかになりそうだ――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます