03
時は流れて、数日後。
俺、シフィアさん、ヨカさんの三人は、待ち合わせ場所である「バラの町 噴水広場前」にやってきた。午後の早い時間なので、この季節にしては比較的暖かさがある。
「ねえ、ラビト」
「ん、どうしたんすか?」
「その……わたし、変じゃないわよね?」
「何回目っすか、その質問」
俺は半眼で、ヨカさんのことを見る。
真っ白の長髪は、金色の髪飾りで編み込みを伴ったハーフアップにされている。顔には薄く化粧を施し、シフィアさんから借りた清楚な白のワンピースを着用。
普段から美しいヨカさんは、俺とシフィアさんの手助けも加わりつつ、さらに美しい感じに変貌していた。
「すごくお綺麗っすよ、今日の君は」
「うう、それならいいんだけれど……」
ヨカさんはくるくると、自身の後れ毛を指で弄んだ。
「だいじょぶですよ! 本日のヨカちゃんは、ばっちり可愛いです! ボクが保証しますよ?」
人差し指を立てながら、シフィアさんが微笑む。
シフィアさんもまた、いつもとは異なる装いだ。普段は下ろされている黄緑色の長髪は、今日は三つ編みにされている。
暗い赤色のワンピースは背中がざっくりと開いているデザインで、どこか大人っぽかった。
「ところで、シェンルさんはもう来てるんですかねー?」
「どうだろう、まだ待ち合わせ十分前だし……あ、待って、いた!」
ヨカさんの視線の先には、金髪の美青年――シェンルさんの姿があった。立ちながら読書をしているようで、俺たちに気付いた様子はない。
「なんか読書してますね……何読んでるんすかね?」
「これで読んでるのが昆虫図鑑とかだったら、めっちゃ面白くないですか?」
「あんな文庫本サイズの昆虫図鑑なんてある訳ないでしょ! 下らないこと言ってないで、さっさと行くわよ!」
「「はーい」」
前にヨカさん、後ろに俺とシフィアさんという感じの並びで、シェンルさんに近付いていく。
「あの、こんにちは……シェンルさん」
「ヨカさん!」
シェンルさんは本から顔を上げると、ぱあっと表情を明るくする。
「会えて嬉しいよ。話していた『ダブルデートに誘いたい知り合いカップル』とは、こちらの二人のことかな?」
「はい、そーです! 初めまして、シフィア=ゼレフィールです! ラビたんの恋人さんです。今日はよろしくお願いしますね?」
「お久しぶりっす、シェンルさん。シフィっちの恋人のラビトっす。今日はよろしくお願いします」
シェンルさんは本を鞄に仕舞って、にこやかに笑う。
「ああ、よろしく! 僕はシェンル=ジティシース。二人は恋人同士なんだね、羨ましい。僕もヨカさんと、そういう関係になれたら嬉しいな」
「えっ……え、えーと……」
たじたじしているヨカさん。シフィアさんがちょっとだけにやけていた。恐らく、ヨカちゃんマジかわいーです! とか思っている気がする。
「その……わたしも、シェンルさんともっと仲良くなれたら嬉しいな……」
「ふふ、ありがとう」
シェンルさんは微笑んだ。そういえば、ヨカさんの敬語が取れている。ダブルデートの提案をするときにでも、若干打ち解けたのかもしれない。
「それでは早速、行こうか。芸術劇場はこっちだよ」
シェンルさんはすっと、ヨカさんに手を差し伸べる。ヨカさんは少しの間逡巡したあとで、彼の手を取った。そうして、二人は歩き出す。
「よし、ついていきましょう、ラビたん」
「おっけいっす、シフィっち」
俺たちも二人に倣って、手を取り合って歩き始める。恋人同士感を出すためにお互いをあだ名で呼び合っているのが、どうにも慣れなかった。ラビたんって何だろう?
*
そうして俺たちは、シェンルさんに連れられて芸術劇場にやってきた。
演劇のチケットを購入して、四人並んで舞台の前の椅子に座る。休日ということもあってか、結構賑わっていた。
座席の並び順は左から、シェンルさん、ヨカさん、シフィアさん、俺、という感じだった。楽しそうにお喋りしているシェンルさんとヨカさんを横目に、俺とシフィアさんは雑談する。
「シフィっちは演劇とか来たりするんすか?」
「いやー、あんまり来ませんね。ボクが普段触れる芸術は、美術館くらいだと思いますよ?」
「そうなんすね。ちなみに、美術館に行くようになったきっかけとかあるんすか?」
「……ああ、純粋に興味があったんですよ。ほら、何か素敵そうじゃあないですか?」
「へえ、なるほどっす。まあ俺も、美術館は割と行きますね……絵を描くの好きだし」
「おおっ、そうなんですね! そしたら今度のデートは美術館にしましょうか、ラビたん?」
シフィアさんは笑顔を浮かべながら、上目遣いでこちらを見てくる。その可憐な表情に、思わずどきりとしてしまう。恋人役、すごい。
「それもいいかもしれませんね、シフィっち。……あ、そろそろ始まるみたいっすよ!」
「おお、本当ですね! 楽しみですねー」
舞台の幕が開き始め、観客席にも段々と静寂が満ちてゆく。俺も普段はこういうところに来ないので、これからどのような演劇が始まるのか、期待に胸を高鳴らせた――
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