6.七月下旬、道しるべ

 個別のメッセージで連絡先を交換しグループチャットを作った。そこで『かなっぺ』は本名をカナと名乗り、自分達三人も名前とある程度の素性を明かした。カナの友人はユリといった。高校時代のクラスメートで、今は別々の会社で働いているが、時折、二人で食べ歩きや旅行を楽しんでいるとのことだった。向こうは社会人ではあるが年齢はたいして変わらなかったし、相手が学生であることを気にしている様子もなかった。

 今年は花火でも見に行こうという話は、少し前からカナとユリの間で出ていたという。しかし二人とも車の免許を持っておらず、かといって電車に長時間揺られるのもくたびれる。ツアーなら安くて楽かもしれないが、大勢と行動するのは面倒だし、だったら近場の花火でもいいか。そうこう調べているうちにあのコミュニティーが目に入った。

 グループチャットにはすぐにユリも加わり、最初は他愛もない話を五人で繰り返した。会話はハルキとカナがリードし、コウタが茶々を入れるという、これまでに飲み会で何度もやってきたパターンだった。

 ユリは口数はそれほど多くないが、ポイントポイントで会話をよく回した。いわゆる『天然』と思える発言もしばしばあったが、機転が利く子だというのが孝明の印象だった。このあたりは完全にハルキのツボをつき、ユリに対するトーンが徐々に変化していった。こうなるとハルキの狙いは既定路線となり、孝明とコウタはそれを前提にする形で話を進めざるを得なくなった。

 孝明は水を向けられればメッセージを返したが、きっかけはいつもカナだった。

 それからほどなく、ハルキは学友の意見を聞くこともなく計画を提示した。

 花火大会の初日、カナとユリは会社を早めに上がる。自分たちは車を出し、待ち合わせ場所で二人をピックアップしてそのまま目的地に向かう。大会が始まるころに現地に入り、花火を楽しむ。その後は食事に行ってそのままホテルに宿泊。翌日の昼間は観光、夜は二日目の花火を楽しむ。帰りは遅くなるが、二人をきちんと家まで送り届ける。

 女性二人がこの非常に安価で、しかも座っている以外は何もしなくてもよいというツアーを承諾するのに、大した時間は必要としなかった。

 最初、コウタは運転の負担が大きいことに多少の難色を示していたが、待ち合わせのためにと送られてきた二人の写真を見て何の迷いもなくなった。ハルキも写真の中のユリに想定以上の成果を感じ、大喜びした。

 学友の意見を聞かない独断に満ちた計画を、すっかり火のついたコウタが補完していった。まずは全員にとってアクセスがよく、車の停めやすい待ち合わせ場所を決め、さらにどこから高速に乗り、どこのサービスエリアで休憩を取るのか、高速代とガソリン代は実費精算とし、車内での喫煙は禁止、など。

 おやつはどうする? とカナが返してきた。そのサービスエリアって大きいの? なにか美味しいものある? 夜は何を食べるの?

 孝明は彼女が打ち込んだ文字を日々ながめた。

 宿泊先はもちろん、駐車場の予約から食事する店の確認までコウタがそつなくこなした。宿泊先は普通のビジネスホテルしか取れなかったが、ハルキはとくに不満も無いようだった。ビジネスホテルとはいえ夏休みということもあり、かろうじて五部屋を取ることができた。

 ハルキは全ての部屋を使う気はないだろうけどな。大学の食堂でたまたますれ違ったコウタは孝明にそう言った。


 計画がおおむね決まると、前期の授業がすべて終了した。



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