さようなら
そうしてヴィクトールさんとの別れを済ませた私はシルヴィアとともに西にある最果ての森を目指して最後の旅に出た。
そこに至る道はとても険しく道中に出てくる協力な魔物相手に苦戦することもあり、最後の旅にふさわしい困難を伴った。
数ヶ月旅をした私とシルヴィアはようやく最果ての森へ辿り着いた。
「はあ……はあ……やっと辿りついた」
「まさかこんなところにこんな立派な祭壇があるとは思いませんでした。本当にあの書物に書いてあった通り存在していたんですね」
「確かに魔力の強い流れを感じる。ここで間違いない」
「キリカ。後は魔法を発動させるだけ?」
「うん、ここで魔法を発動させれば後は元の世界に帰るための門が開くはず」
「そっか。じゃあここで私とはお別れですね」
そう言って彼女は私に抱きついてくる。
「ちょ、シ、シルヴィア……!?」
「ごめんなさい。あの時の会話で未練は断ち切ったと思ってたんですけど……やっぱり寂しいわ。少しだけこうしていてもいいかしら?」
「……分かった」
私はしばらくシルヴィアに抱きしめられたままとなる。その体から伝わってくる体温は妙に心地よかった。
「ありがとう。さあ、あなたの元いた場所に戻る時です」
そう言ってシルヴィアは私の背中を押して祭壇のほうへ向かわせようとする。その動作は寂しさを押し隠しているようで私は少し辛く感じた。
その辛さを振り切って私は祭壇へと向かう。その中心に立った私は意識を集中させ、魔法を発動させる。
魔法の発動が終わると私の目の前に白い渦のようなものが現れた。どうやらこれが日本に戻るための門らしい。
私はその門をじっと見つめた後、シルヴィアのほうを一度だけ振り返る。
「シルヴィア、ありがとう。あなたがいてくれたからこの世界で過ごした時間は楽しいものになったわ。私は一生この時間のことを忘れない」
私の言葉を聞いたシルヴィアは一瞬目を見開くがやがて笑みを浮かべる。
「私もキリカといろいろ出来て楽しかったわ。いろいろな体験をくれてありがとう。そして元の世界に帰ってもどうか元気で」
「さようなら。シルヴィア」
「さようなら。キリカ」
お互いにそう言って私はシルヴィアに背を向けて白い渦に向かって歩きだした。やがて渦の中に入るとなにも見えなくなっていく。見えなくなる直前にシルヴィアのほうを振り向くと彼女が涙を流しながら微笑んでいるのが見えた。
なんてことないOLの異世界奮闘記 司馬波 風太郎 @ousyo
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます