別れ

「ヴィクトールさん、こんにちは」


 私は久しぶりにロディア領に戻ってきていた。ヴィクトールさんに最後の旅に出る前に挨拶をしておきたかったからだ。


「キリカさん、こんにちは」


 久しぶりに戻ってきた私にヴィクトールさんは優しく接してくれる。この温かさにこの世界に来た時の私は救われたのだ。


「久しぶりですね。あなたからこちらに会いたいと言ってくるというのは珍しい」

「実はお話ししておきたいことがあって来ました」


 私の神妙な様子にヴィクトールさんも態度を改める。私はゆっくりと深呼吸をした後、私の目的と正体についてヴィクトールさんに説明を始めた。




 私の話を聞いていたヴィクトールさんは最初は戸惑うような表情を見せたものの最後静かに話を聞いていた。


「それで……私に最後の挨拶に来たということですか」

「……はい。今まで黙っていてすいませんでした。言っても信じてもらえないと思って……

今の説明も信じてもらえたかどうか自身がありません」


 なにより親切にしてくれたヴィクトールさんを騙していたみたいでとても申し訳なく思ってしまう。

 私の話を黙って聞いていたヴィクトールさんはやがてゆっくりと話し始めた。


「……なんとなくあなたはなにかを隠している気はしていましたよ。だって魔法を覚える姿勢が必死過ぎて他の人間と比べて明らかに違っていましたから」

「……」

「でも、今の話を聞いて納得しました。あなたは帰りたかったのですね、元の世界に」

「すいません、勇気がなく本当のことを今まで話せなかったのは私の過ちです」

「いいえ。あなたが言ったとおり出会って初めての時だったら私もその話を信じてはいなかったでしょう。今まであなたといてその様子を見ていたから納得できたのですよ」


 そうしてヴィクトールさんは私の顔を見て微笑む。


「どうでしたか? この世界は? あなたにとって楽しい場所でしたか?」

「……はい!」

「それはよかった。この世界での経験は嫌なことばかりでしたと言われたら私ちょっと落ち込んでいましたよ」

「楽しくなかったなんてことはありませんよ、ヴィクトールさんにこの世界のことをいろいろ教わったり、魔物との戦い方を教わったりしたのはとても楽しかったです。この世界に来て初めて出会えたのがあなたで本当によかったと思っています」


 そう言って私は頭を下げる。


「本当にありがとうございました。あなたと出会えたおかげで私はここまで来れたんです

「そんなに感謝されることはありませんよ」


 私の感謝を聞いてヴィクトールさんは苦笑する。


「さようなら、どうか元の世界に戻ってもあなたが幸福に過ごせることを祈っていますよ」

「……ありがとう、ございました!」


 泣きそうになるのを堪えて私は屋敷を後にした。

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