最後の旅
その後、私とシルヴィアはお互いに協力関係になった。私は日本で学んだ知識を元に彼女に領地運営をどうしていったらいいかや制度について助言を行った。
彼女は私が国家魔法師として活動していく上での資金や魔法の実験や調査についての援助を行ってくれた。
またシルヴィアは私の本当の目的を達成することにも本当によく行動してくれた。ティリス家に伝わっていた異世界からの来訪者についての話も私に教えてくれたし。ただこの話は伝承として伝わっていた面が強かったせいで情報としては役に立たなかった。
彼女はその後も私が日本に戻れるようにするためにいろいろと動いてくれた。手がかりになりそうな書物を手に入れたり、私が情報を集めやすいようにいろいろと交渉してくれたりと、私のために行動してくれた。
シルヴィアはたまに私の依頼に一緒についてきたりした。なんでも家にずっといては剣の腕がなまるしいろいろ外を見て回りたいということらしい。見た目は清楚お嬢様のお手本なのに中身は結構お転婆なのだ、ティリス家の人がそれで苦労していたことを私は後で知った。立場が立場なため、人前では落ち着いた振る舞いをするようにしているが中身は年相応なところもある普通の人間であることを私は彼女と接して行く上で知った。
そうして私達は見つけた、日本に帰るための方法を。
「いやー、やっと見つかった」
「よかったわね、キリカ」
私の言葉にシルヴィアは労うように声をかける。
「本当に長かったなあ……やっと手がかりが見えた……!」
「それでその文献にはなにが書かれているの?」
「えっと……他の世界に行くためにはある場所に行く必要があるって」
「それは……一体どこ?」
「この大陸の遙か西にある最果ての森。その中にある祭壇で魔法を使用して別の世界への扉を開くってあの本には記述があったわ」
「なんでまたそんな面倒なやり方をするのかしら? そもそも魔法としての術式が完成しているならどこでも使用できるんじゃないの?」
「この世界と他の世界を繋ぐこの魔法を使用するにはかなりの魔力を消費するみたいでね。この場所が一番魔力の量が多かったみたい」
「成る程。世界と世界を繋げるのはそれなりに必要な手間があると」
「そうみたい。あとこの魔法は魔力の消費が膨大で一回使うと周囲の魔力を根こそぎ持っていくから再び使うのに何十年かかかるみたいよ」
「一度発動すると数十年発動不可能ですか。それはまた……」
「まあこれだけ大きな魔法を何回も使用できるのがおかしい。もし使用できたらそいつがとんでもない奴ということだけは分かる」
「ともあれこれでキリカが元の世界に戻る方法が見つかったということですね」
「そうね、でもこれでやっと元の世界に帰れる……」
ようやく元の世界に帰れる。この世界に来てからもう5年は経っていた。一時期はもう戻れないかもと諦めていた時もあったが諦めずここまでやってきて本当によかったと私は思った。
「ありがとう、シルヴィア。これも全部あなたのおかげよ。あなたがこの本を見つけてくれなかったら今でも帰る方法を探して右往左往していたわ」
「お礼なんて。私こそあなたにお礼を言わないといけないわ。あなたがもたらした知識のおかげでこの領地も発展してきているし」
「ティリス領がこれ以上発展したら他の家はもう太刀打ちできなさそうだけどね」
「あはは、まあそれが私の目的の一つでもあるから。もう一つの私の力を認めさせるのほうも大分達成されてきているけどね」
「まあ、これだけ結果を出してしまったらだれも文句は言えなくなるでしょう。領民の公衆衛生や所得をかなり向上させたしね」
私がそっけなく言うとシルヴィアは私の元に歩み寄ってきて手を取った。
「シルヴィアなにを……」
「ねえ、キリカ」
少し沈んだ表情で私に問いかけてくる彼女。私はそんな彼女からの言葉を待つ。
「今でも元の世界に帰りたいと思ってる?」
「……」
彼女の言葉に思わず私は黙りこんでしまう。
「それは……」
正直、今の私はこの世界で生活するのも楽しいなと思うようになってしまっている。ヴィクトールさんは変わらず私に対してよくしてくれているし、シルヴィアも今や私にとって大事な友人だ。
正直私もそのことではずっと悩んでいた、このまま帰る方法が見つからなければこの世界に残ってもいいかと思うようになっていたほどだ。
それでも
「それでも……私は日本に帰るよ、だってあそこにはここで出来た大事な友人と同じくらい私にとって大切な人達がいるから」
私がここまで前に進んで来れたのはその人達にまた会うためだ。だから
「だから私は日本に帰るために西にある最果ての森に行くよ」
私の言葉を聞いたシルヴィアは下を向いて黙りこんでしまう。しかししばらくして顔をあげ、私の顔を見つめる。
「そっか。キリカにとっての家族や友達が日本というところにはいるのよね」
「うん」
「……なら仕方ありません。家族や友人の大切さ、故郷が大事という気持ちは私にもわかりますから」
そういって気丈に振る舞う彼女はどこか寂しげに見えた。
「シルヴィア、寂しいの?」
彼女の表情を見た私は思わずそう尋ねてしまった。
「寂しくないと思っていますか?」
「……!!」
「三年間、ずっと一緒に行動してきたんです。あなたが向こうに戻ってしまえばもう二度と会えないかもしれない。それで寂しくないわけないでしょう」
一呼吸おいてから彼女は言葉を紡ぐ。
「それでも……今のあなたの言葉を聞いたら止められるわけないじゃないですか。だから私はあなたの意志を尊重します」
「ありがとう、私はあなたと出会えて本当によかった」
「ふふ、そう言ってもらえるのはこちらとしてもとても嬉しいですよ」
「いきましょう、最果ての森へ。これが私達にとって最後の旅になります」
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