シルヴィアの依頼

 2週間後


「ふあああ……」


 昨日、夜遅くまで魔法について調べていた私は寝不足気味の体をなんとか起こして伸びをする。寝不足は体によくないと分かっているけど、熱が入るとつい研究に没頭してしまう。


「さて、今日も用意をしたら依頼を確認して……」


 いつもどおり依頼を受けようかと考えていた時だった。部屋の扉がノックされる。


「はい?」

「キリカ様、お客様です」


 声は受付の女性のものだった。彼女からこちらに来るとは珍しい、一体なんだろう?


「私に? 誰ですか?」

「シルヴィア様です。この前の件でと」

「ああ、分かりました。ちょっと用意をしてから行きますので待っていてもらうように伝えてもらっていいですか?」

「かしこまりました」


 私は着替えを手早く済ませ、部屋から出る。受付の女性に連れて行かれたのはこの前と同じ応接室だった。


「すいません、お待たせしました。シルヴィアさま」

「いいえ、気にしないでください。私が勝手に来たのですからこれくらい大丈夫ですよ」

「その……今日はこの前の件でいらっしゃったと伺いましたが?」

「ええ、一応この前の件を指示したものを捕まえて処分しましたので。あなたの推察通り、お父様が視察に伺った家の者の計画だったようです。最近、お父様と対立気味でしたので事の真相が明らかになった時はああ、成る程と納得してしまいましたが。まさかここまで分かりやすく愚かなやり方をしてくるとは思っていませんでした。その家はおとり潰しにしましたけど」


 こういう貴族の政治的駆け引きの物騒な話を軽くしてしまう当たり、シルヴィアはやはり公爵家の人間なのだろう。元々そういった危険に晒されることをある程度覚悟しているのだ。 私は正直こんなものには巻き込まれたくはないし、正直今の話も怖いと感じてしまう。


「なにはともあれ犯人が分かったのならそれはいいことです」

「ええ。それで今日はあなたにまた新しい依頼をしようと思ってやって参りました」


 シルヴィアの言葉に私は面喰らってしまう。また私に


「それは一体……」

「今度、私は領地の魔物の討伐をすることになっています。その時あなたにも同行して欲しいのです」

「つまり今度は討伐の依頼ですか?」

「そういうことになりますね」

「……報酬は?」

「はい」


 目の前にお金を積まれる。こうされると私は引き受けるしかない。


「……分かりました、引き受けましょう。しかし少しだけ聞いてもよろしいですか?」

「なんでしょう?」

「どうして私を使命されるのですか? 私以外にも優秀な方はいっぱいいらっしゃると思いますが」

「……あなたのことが気になるからとでも言えばいいでしょうか。以前も言ったかと思いますがなんというか他の方とは違うものを見ている気がして」

「……」

「……どうかしました?」

「いえ、なんでもありません。先程のお話はお受けします」

「まあ、ありがとう。討伐は来週の予定です。その時またお会いしましょう」


 そう言って彼女は立ち上がり、去っていった。なんだろう、シルヴィア様が私のことを知っているはずはないのだけど。私に近付いてくる意図が見えず、警戒してしまう。

 危ない目に合う前縁を切ったほうがいいのかななどと考えながら私も自分の部屋へと戻った。

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