犯人は
シルヴィアに案内された私は王都にあるティリス家の屋敷にやってきた。貴族は王都に屋敷を大体持っているが流石に公爵家だけあって屋敷の大きさが桁違いだった。
私はシルヴィアに屋敷を案内されながら屋敷の中を観察していた。置いてある家具は落ち着きがあり、全体的におしゃれで落ち着いている。金に物を言わせて揃えたといったような雰囲気はまったくなかった。
「こちらです」
シルヴィアはある部屋の前で止まると扉を開け、入室する。私もそれに続いて部屋に入った。
部屋には大きなベッドが置いてあり、一人の男性が寝ていた。意識がないことは私でも見て取れる。
「シルヴィア様、これは……」
「はい。父は何日も前からずっとこのままなのです。意識は戻らず寝たきりのまま……」
シルヴィアは睫を伏せながら悲しそうに話す。憂い顔も絵になるのは羨ましい。
「少し見せてもらってよろしいですか」
「はい、お願いします」
私はシルヴィアに断りを入れてから、ティリス公爵に近付き状態を観察する。
「……これは……」
私は公爵の状態を観察し、あるものを見つけた。首の周りになにかに刺されたような後があったのだ。それを確認して私はシルヴィア様に尋ねる。
「シルヴィア様、ティリス公爵はこうなる前最後になにをなされていましたか?」
「え、確か領地の視察をしていたと思います。その後王都に来てから急に倒れられて」
「……間違いない。これ、ドリームバグに刺された後だ」
「えっ!? ドリームバグって刺したものを夢に誘い込み眠りに落とすと言われるあの使い魔ですか?」
「はい、その通りです。これを見てください」
「これは……なにかに刺されたような痕がありますね」
「ええ、これはドリームバグに刺された痕です。そしてそいつは使い魔ということは」
「お父様は何者かに狙われたということ!?」
「そうですね、その可能性が高い。ティリス公爵の地位を考えれば当然のことなのかもしれませんけど」
「……とりあえずお父様を追い込んだ犯人は後で探します。今はお父様を直すのが先決です。どうすれば治るのですか?」
「目を覚ますための薬を今から調合します。少し空いている部屋をお借りしてもよろしいでしょうか」
*
空いている部屋を借りた私はこの呪いを解くための魔法薬を調合し、ティリス公に打ち込んだ。
軽いうめき声をあげた後、ティリス公はゆっくりと目を開けた。
「シルヴィア……」
「お父様!」
シルヴィアはティリス公爵に抱きつく。公爵が目を覚ましてほっとしたのだろう。
「今はすこしぼんやりされている状態だと思います。しばらくすれば意識もしっかりするはずです」
私の説明を聞いてシルヴィアはこちらにやってきて私の手を握ってぶんぶんと振った。こういうことはしないイメージがあったので私はちょっと戸惑ってしまう。
「キリカさん、ありがとうございます! あなたのおかげで父が助かりました。しかし、少し気になることが……あなたは先程お父様の昏睡の原因は使い魔に刺されたことが原因と言っていましたね。と、いうことは」
「はい、シルヴィア様のかんがえていらっしゃる通りです。ティリス公に対して誰かが先程お話しした使い魔を差し向けたことになります」
「!? 一体誰が、なんのために……」
「おそらくティリス公が先程のような状態になって一番特をする人間でしょう。公爵家と対立関係にある家か……個人的に恨みのある者かは分かりませんが」
「……その件に関してはすぐに調査をさせます。少し心当たりがありますので」
底冷えするような声でシルヴィアは言い放つ。その酷薄さを帯びた声を聞いて私は背筋に悪寒が走った。
「本当にありがとうございました。キリカさんのおかげでティリス家の危機を回避出来ました」
私に話かけてきた声はいつもどおりのものへ戻っていた。私は気を取り直して会話を続ける。
「いえ、私はただ依頼を受けて解決しただけですので」
ふと気付くとシルヴィアがじっとこちらを見ていた。
「あの……なにか?」
「いえ、そのとてもキリカさんはとても落ち着かれた方だなと思って」
「そんなことはないですよ。今のシルヴィア様の話を聞いていても貴族社会とか怖いなと思いましたし」
「あはは、まあそういう場所ですからね。私が言ったのはそういう意味ではないんです。なんというかうまく言えないんですがここではないどこかを見ているような感じの人だなって」
彼女の言葉に少し私はどきりとしてしまう。まさか私が別の世界から来たとは思ってないだろうけど。
「また、困った時はあなたに依頼してもいいですか」
「それはもちろん。私としても依頼を出してくれる方が一人でも増えるのはありがたいですから」
「じゃあまた依頼を出させて頂きますね!」
「ええ、今日はこれで失礼しますね」
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