国家魔法師
それから何ヶ月か私はヴィクトールさんの屋敷にお世話になることになった。この世界の政治や経済、存在する国について一通り学んだ。今私がいる国はエルセリア王国という名の国らしい。発見されている国家としてはこの世界最大の国で、政治制度は貴族制を採用している。
ヴィクトールさんはこの王国で伯爵の地位にある貴族だ。結構な地位で聞いた時私はびっくりした。
またこの世界には私達の世界にいなかったものも存在している。
魔物だ。
私を最初に襲ってきたあの狼のような生き物も魔物の一種だったらしい。この世界では普通に生息する生き物の扱いのようで私は魔物の驚異から自分の身を守るため、基本的な剣術や戦闘技術などをヴィクトールさんから教わった。
ちなみに文字に関してはなぜか最初から読めた、理由は分からないが。
この世界のことを調べていく内に私が次に興味を持ったのは魔法だった。どうやらこの世界では日本のファンタジーRPGなどで出て来る魔法が実際に存在しているらしい。これを知った時改めて違う世界に来たことを実感した。
魔法の原理や仕組みについて調べるのは面白かった。この世界自体の知識に加えて私は魔法の勉強も始めた。
そうしている内にある考えが私の頭に浮かんだ。この魔法を使って日本に帰れるのではないかと?
そう考えた私は寝る間も惜しんで魔法の勉強をした。しかし、他の世界へ行くという魔法は調べるだけ調べても見つからなかった。
そうして私がヴィクトールさんに拾われてから約1年くらいが過ぎた。
「ふう。とりあえず今日のノルマは終わりか」
今日も日本について戻るために魔法について調べていたがなんの成果もなかった。疲れた私はベットに寝転がって溜息をつく。
「この世界についての理解は進んだのに」
肝心なことを知ることができない。そのことは私を焦らせていた。枕に顔埋めて拳を握りしめるも現実は変わらない。
「魔法やいろんな魔物についても知ることが出来たけど、元の世界に戻る方法については全然分からずじまいだなあ」
正直ヴィクトールさんは私によくしてくれている。私がお願いしたことはなるべく叶えようとしてくれているし、この世界のことをなにも分からなかった私に魔物との戦いや生活のことも助けてくれた。
しかし私もある程度自衛ができるようになった以上、そろそろ自立したいのだ。
いつまでも面倒を見られるままというのは気が重い。
そんなことを私が考えていると部屋の扉がノックされた。
「どうぞ」
「ああ、こちらに居ましたか」
部屋に入ってきたのはヴィクトールさんだった。私は彼が座れるように椅子を用意する。
「ヴィクトールさん、こんにちは」
「どうですか、キリカさん。あなたが探したいと言っていたものは見つかりましたか?」
「いえ、まだです」
「ふむ……」
私の返答を聞いたヴィクトールさんは顎に手を当てて少し考え込むような仕草をする。
「ヴィクトールさん、どうかされましたか?」
「キリカさん、あなたは王城の研究員になるつもりはありますか?」
「研究員?」
「ええ。勉強熱心なあなたならすでに聞いたことがあるかもしれませんが、この国には国家魔法師という資格があるんですよ。その資格をとれば魔法の研究に関して資金援助などの大きな特権を得ることになります。その変わり王国の危機に力を貸すことを義務付けられますけどね」
「成る程、国に尽くす変わりに見返りを与える仕組みですか。強力な魔法使いを囲うメリットもあるという訳ですね」
「おっしゃる通りです。ちなみに私もその国家魔法師の資格を持っています」
「それをどうして今私に確認したのですか?」
「あなたが悩んでいるようでしたので。なんとなくこの屋敷でお世話になっているだけの状況が嫌になっているのではないかと思ったのですよ。この資格があればいろいろなところで役に立つので今のあなたに一番必要なものではないかと思ったのです」
完全に見抜かれていて私は思わず苦笑いしてしまった。しかしヴィクトールさんのいうとおり、その資格を用いていろいろ調べることで日本に帰る方法を見つけるのも容易になれるかもしれない。
「興味があります。その資格を得るためにはなにをすればいいのでしょうか?」
「半年後にある試験に通ることです。筆記と実技、その両方に通ることが条件となっています」
「その試験、受けてみたいです。試験について教えてもらえませんか?」
「いいでしょう。これから半年間しっかり仕込んであげます」
ここからヴィクトールさんに厳しくしごかれる日々が始まったのだがこれは私の中で結構なトラウマとなった。
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