異世界生活の始まり
「本当にありがとうございました。あなたが来なかったら私は今頃どうなっていたか」
私はあの後、ヴィクトールと名乗った人物の屋敷まで連れてこられた。今はとりあえず疲れているだろうからと部屋を貸してもらい休んでいるところだ。
彼はどうやら貴族の身分らしく、立派な屋敷に住んでいた。根っからの小市民である私はこの雰囲気に思わず気後れしてしまう。
「いえ、流石に魔物に襲われている人を放ってはおけませんから。とりあえず少しゆっくりしてください」
私の謝罪に彼は穏やかに微笑む。顔がかなりの美形なのでそういう意図はないと分かっていても思わずドキリとしてしまう。
彼は屋敷のメイドに言いつけてお茶をさせていた。こういうのを見てると私は異世界に飛ばされたことを実感する。この世界は根本的に日本とは違うことを嫌でも実感させられる。
私がそんなことを考えて落ち着かない間にメイドさんが二人分のお茶を持ってきた。
「さてお茶も来たことですし、いくつか尋ねさせてもらってよろしいでしょうか?」
「はい」
「まずは……あなたは一体どこからやって来られたのですか? 髪の色もこのあたりでは見覚えがないですし、体格も我々と比べて小柄なのでどこからやってきたのかなと。東の方にも国があるという話ですがそちらからやってきたのですか?」
どうやら彼の反応を見るに彼にとって私のような容姿の人間は珍しいらしい。
「ええ……まあ、そんな感じです。道中で迷ってあそこで倒れていたというのがお恥ずかしながら事の顛末でして」
私は相手に話を合わせてそう答える。異世界である日本から来ましたなんて言っても誰も信じないだろうから合わせるのが無難だ。
「成る程。失礼ですがこのあと行く当てはあるのですか?」
「あー、いやないですね……」
困ったことにこの世界で誰か私を助けてくれる人はいない。知り合いなんて一人もいないのだから。
「ふむ……でしたらしばらくはここに留まってはいかがでしょう? このまま当てもなく放浪するよりはいいかと思いますが」
意外な提案からヴィクトールさんから出た。
「私のような妖しい人間を置いて大丈夫なんですか?」
仮にも貴族の身分なら怪しい人間を屋敷に置くことはよくないことだというのは私でも分かる。
「構いません。あなたが私を狙っているものならすでに何らかの行動を起こしているでしょう。あなたの様子を見るに本当になにも知らないようでしたので。そんな人間を追い出すのも寝覚めが悪い」
どうやら私はこの世界における出会いの運はよかったほうらしい。もしろくでもない人間と出会っていたらどうなっていたか考えるとぞっとする。
「すいません、そうさせて頂けるなら助かります。後、一つお願いを聞いてもらってもよろしいでしょうか?」
ヴィクトールさんの言葉に甘えて私はその申し出を受ける。どのみちこの世界で私が生きて行くには知識も武器も足りない。ならば安全なここでそういった術を身に付けるほうがいいだろう。
「後、一つお願いを聞いてもらってもよろしいでしょうか?」
「なんでしょう?」
「私にこの国のことについて教えてもらいたいのです。そのため本などを貸して頂けないでしょうか? できればさっきのような化け物?から身を守るような術も。お世話になるばかりでは申し訳ないので」
「ふむ、いいでしょう。他国から来られた身だ、いろいろ知っておかれるのは今後役に経つはずなので。後で手配させます」
「本当にありがとうございます」
「いえいえ。では私はこれで失礼します」
こうして私の異世界での生活が始まった。
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