坂原優衣 [ 3 ]
「ただいま……」
門限は7時だが……今は6時45分。間に合った。
もう冬にさしかかろうとしている時期だから日が落ちるのも早い。夏ならまだ明るかったのに今では外はもう真っ暗だ。
「おかえりなさい。ご飯、作ってあるから食べてね。」
帰ってすぐにお母さんから声が聞こえた。
「はぁい」
少し間延びした返事をして洗面所に行く。
洗面所の隣からシャワーの音がした。
妹がお風呂にでも入っているんだろう。
家族の仲は悪くない。なんならいいほうだと思う。
お父さんは毎日帰ってくるわけじゃないが、たまに帰ってきた時は明るく「ただいま〜」と言ってくれて。
帰ってきて直ぐお母さんと笑顔でハグをしていたり。
妹が小学校でやった事などを「あのね、あのね!」と話すのをみんなで聞いたり。
妹と一緒に料理を作って失敗して結局みんなで作ってお祝いした結婚記念日だったり。
本当に「絵に描いたような幸せな家族」とはこういうのを言うんじゃないだろうか。
でも。そんな家族だからこそ。
こんな所にいていいのか、と気後れする自分がいて。
幸せの中に、こんな何も出来ないような人間が紛れ込んでもいいのかがとてつもなく心配になって。
気になりだしたら止まらなかった。
でも、家族の仲を悪くしたくなくて。
何も言い出せず今日も笑顔を取り繕っていた。
学校でのことで悩みがある、なんて思いもしていないだろう。
手を洗い、リビングに行くと母のご飯が置いてあった。
今日はハンバーグだ。
最近はあまり気分が乗らず少ししか食べれていなかったが、今日はいつもよりもお腹がすいている。
少し非日常的なことがあるとこんなにも変わるのか。
楽しみを探すのは大切だな。生きている実感が湧く。
別にそんなもの必要無いとは思うけど。
ハンバーグは美味しかった。添えてある野菜もなんか健康に良さそうだ。
野菜が好きでよかったと本当に思う。健康に過ごすのが1番だ。
自分の部屋に戻ると、ふっとスイッチが切れたように体に力が入らなくなった。
そのままズルズルと扉に寄りかかっていく。
目の焦点が合わない。視界がグルグルしている。
呼吸も荒くなってきている。過呼吸……とまではいかないけど。
いいことがあった、とはいえ精神的にキツかったものはキツかったんだろう。
誰にも相談しないことがこんなにも辛いのか。
一時のものなら良かったものの、いつ終わるかも分からない、先の見えないものとなるとストレスは段違いだ。長期間、というのは何事にも影響を与える。
良い影響も、悪い影響も。
このままではやばい。
そう思い、扉によりかかったまま目を閉じて深呼吸をする。
ゆっくりと息を吸って、吐いて……繰り返しているうちにだんだんと落ち着いてきた。
もう早く寝てしまおう。
そう思い腰を上げた。
ストレスのせいか最近寝れていないのだ。
日に日に悪化している気がする。
寝る、となった途端に耳鳴りがして頭痛がするようになったり、涙が止まらなくなったり。
でも疲れていれば無理矢理でも寝れるだろう。
そう少しの期待を込めて布団に入っていった。
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