Chapter20 遡ること…
「確保」
充が言った。その隣には孝之が立っている。
「……はっ?」
当然ながら、この状況を俊樹は理解出来ていない。乗車報告もしていないのに、なぜ2人が今、目の前にいるのか。「えっ、うそ、やろ……」
俊樹は思わず崩れ落ちてしまった。
※
遡ることおよそ2時間前。
「あれ、ほんまにウザかったな」
充と孝之は個人ラインに移って、電話していた。
「ウザイどころか、地元で煽られて無茶苦茶ショックなんやけど」
「まさか、宝塚やとは思わんかったな〜」
「ごめんな、充。てっきり、阪神やと思ってたからさ、見逃してた」
「いいよ、いいよ。誰にだってミスはあるし」
そして、充は孝之に聞いた。「ところでどうする? あいつ、どうやって捕まえる?」
「もうすぐ、位置情報公開なくなるからな。これから難しくなるよね」
「少なくとも、宝塚に留まることはしなさそうやし、となると阪急で逃げるよな」
「今、どこにいるん?」
十三やで、充は言った。「俺は尼崎やわ」
「今から、宝塚方面へ行こかなって考えたけど、次来るのは普通やわ」
「普通は宝塚行かへんからな」
宝塚線の普通電車は、全て雲雀丘花屋敷止まりだ。
「急行待ったとしても、すれ違ったら意味ないし、かと言ってここで待ってても、あいつが大人しく乗り通すとは思えんし……」
いい作戦がなかなか思い浮かばない。このまま終わってしまうのか。
だが、その時、
「なぁ」
口を開いたのは、充の方だった。「さっきさ、孝之、親戚に警察官いるって言ってなかった?」
「えっ? うん。同居してるおじさんが、西宮署で働いてるけど」
「今日って、非番かな?」
「うん、朝、家出た時、庭でラジオ体操してはったで」
それを聞くと、充は念を押すように孝之に言った。「今からさ、おじさんに電話してくれへん?」
「どういうこと?」
へへへ、充は笑った。
「今、あいつ、宝塚にいるんやろ? 警察官のおじさんに俊樹のことを尾行してもらって、それであいつの今いる場所を逐一教えてもらおうよ!」
孝之は思わず、自身の腰を叩いた。「おま、天才かよ!」。友だちの頭の回転の速さにとても驚いた。
「ルールには、人に頼んだらダメなんていう文言なかったしな」
「じゃあ、お願いしていい?」
オッケー、一旦電話が切れる。
それから3分後。
「おじさんにオッケーもらったで! しかも、まさかの宝塚駅辺りにいてるみたい」
「ちゃんと特徴言った?」
「あいつの写真、何枚か送ったった」
それから、孝之のおじさんから、宝塚線の急行の車内俊樹を確認したと連絡があった。それとほぼ同時刻、俊樹からの乗車報告が入った。
「じゃあ、俊樹のことは一旦、おじさんに任せておいて。今から、梅田に向かうから、充、一緒に落ち合おう」
※
「やっほー」
朝の時空の広場で、合流した2人。
孝之が笑っている。
「今、おじさんから新たに連絡来まして。なんと! 千里中央から、こちらへ向かって来てるとのことです!」
2人で拍手をあげる。「18時11分発のなかもず行きやわ。あと、切符買うところを見たらしいけど、梅田まで買ったみたい」
「梅田着く時には、30分になってるな。梅田で降りたところで確保は出来ひんな」
「じゃあ、新大阪行こうや」
「さんせ〜!」
ということで、2人はJR改札の中に入り、普通の高槻行きで新大阪へ向かった。
充と孝之が頭の中で思い浮かべているのは、俊樹が絶望する顔。宝塚での恨みはとても深かった。
新大阪に到着し、御堂筋線へ乗り換えた。
「来たで」
なかもず行きのご到着。俊樹は完全に油断している。
2人は一番後ろの車両へ向かった。
※
梅田で3人は降りた。
俊樹は死んだような目をしている。本当に逮捕された犯罪者のようだ。
「ねぇねぇ、俊樹くん。今、どんな気持ち〜?」
ここで孝之の渾身の煽りが炸裂した。「残念でしたぁ〜! フォォ! きもちぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「さすがに、ほんまに警察導入するのはなしやろ!」
俊樹はとても悔しそうだ。
「おじさん、ありがとう」
「なんかよう分からんけど、楽しそうやからよかったわ」
孝之のおじさんは先に帰ると言う。3人に手を振ると、さっさと退散して行った。
「まじかぁ……。勝った思たのに。最悪や〜!!」
「お前の負けです。というか、俺の地元に行って挑発して来た時点でもう負けてましたよ」
「どんなけ、あの時の煽りを根に持ってんねん! てか、今、捕まってしまったから、あの時の煽り、無茶苦茶恥ずかしいんやけど」
「まぁでも、ほんまにお前、策士すぎるから手強かったわ」
と、充が言った。「こんなに振り回されるとは思いもしてへんかった」
「それはそう。無茶苦茶振り回された」
ラインの通知音が鳴った。
ゲームマスター『午後の部、終了』
ゲームマスター『俊樹君が確保されたので、鬼チームの勝利です!』
長かった午後の部が終了した。
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