Chapter9 隠された乗り換え駅

「どうゆうことや……?」

 俊樹は十三駅に降り立っていた。

 結局、6分に通知は送られてこず、封鎖計画はそれぞれが配置に着く前に中断となった。

 そして、9時13分。


 ピコンッ──。


 通知だ。

 慌てて、俊樹は確認する。


『9:13 淡路駅 6号車』


「今、淡路駅経ったんか」

 そして、さっきまで見ていた淡路駅の時刻表を確認する。

 淡路駅をその時刻に出発する列車は、準急の大阪梅田行きの一本だけだった。

「絶対これに乗ってる。──じゃあ、十三ここに来るやん!」

 階段を下り、地下通路を歩いて6号線へ向かう。

 この電車の到着時間は9時20分だ。


孝之『まさかの淡路待機、、』


 孝之も驚いているみたいだった。

 誤算はあったが、それでもまだ確保できる大きなチャンスがある。

 6号線に到着。

 6号車の停止位置で準急大阪梅田行きをお出迎えする準備を整える。


 だが、

「いない……」

 車内に見慣れた男子高校生の姿はなかった。

 すぐに孝之に連絡する。

 孝之は十三の1つ手前の南方みなみかた駅に行ってもらうことにした。

 南方では大阪メトロ御堂筋線みどうすじせんとの乗換駅。

 今、乗車していないということは、充はそこで乗り換えて逃げた可能性が高い。

「そうなると、梅田か……?」

 次に到着する電車で梅田へ行くことにしよう、そう思っていたその時だった。

 通知が入った。

 充からのだった。しかし、そこに書かれていた言葉に俊樹は、

(やられた……)

 しばらくスマホの画面から目を離せなくなってしまった。

 


 遡ること25分前。

(やけど、ここからや……)

 1dayパスを改札に通して、充は駅の外に出た。

「これはちょっとあいつらにとっては盲点になってるんじゃないかな。これから乗り換えるのは——JRおおさか東線」

 充がこれから利用する、JRおおさか東線は、東海道・山陽新幹線の発着駅である新大阪駅から大阪府八尾市にある久宝寺駅までを結ぶ路線だ。

 阪急京都本線、千里線はおよそ300メートル距離があるものの、淡路駅でおおさか東線と接続している。

 しかし、駅改札を出た所に「JRおおさか東線淡路駅はこちらです」と案内する地図付きの看板はあるものの、なぜか阪急電車では淡路駅に到着する際の車内アナウンスで、JRとの乗り換え駅である旨が一切放送されていない。

 言わば、淡路駅はJRとの隠された乗り換え駅なのである。

(これで、2つの路線に同時発車する便があれば、上手いこと俊樹たちに俺が阪急に乗っていると見せかけることが出来るな)

 おおさか東線の淡路駅に辿り着いた。

「おっ! 次来るやつ、梅田行きの準急と同じ時刻に発車するやん!」

 それも、新大阪行きの便に、である。「これはもう、『どうぞ逃げてください』と言われてるみたいなもんやな。いや〜JRと阪急は、ほんまに親切やな」

 ホームに新大阪行きの電車が入線。1番後ろの車両に乗り込む。

 そして、俊樹と孝之に乗車報告──2人が気付いた時に悔しがる様子を瞼の裏に浮かべながら。

 淡路駅から終点の新大阪駅までは二駅だ。

 6分後、白色の6両編成の電車は終点の駅の2番ホームにゆっくりと入線した。

 新大阪駅に着いてからも、乗り換えだ。

「新大阪に到着。次は大阪メトロ御堂筋線」

 エスカレーターを上がり、改札を急いで出て、地下鉄御堂筋線のホームを目指す。

 新大阪から大阪梅田方面への移動手段は、JRの他にもこの御堂筋線がある。

 天王寺行きの電車がちょうどホームに停車していた。この電車は、JR京都線の大阪駅を通る普通電車と同時刻の発車だ。

 定刻通り、9時30分に電車は発車した。

 そして、一駅先、西中島南方駅で降りた。

 この先、地下鉄は中津を通り梅田駅にたどり着くが、先ほど彼が新大阪を経ったため、鬼チームが充は大阪梅田に来ると予想して、張っている可能性が高い。そのため早々に列車を下車したのだ。

 この駅では阪急京都線と接続している。

「ここまで完璧や。全部シナリオ通りに進められてる」

 駅外に出て、阪急南方駅へ向かっている途中、充はガッツポーズをした。「結構、煽り散らかすように逃げることができたな。でも、ここで油断してはダメ」

 ゲーム終了まで約1時間半。

 せっかく、作戦が上手くいったのに、ここで捕まってしまっては全てが水の泡と変わってしまう。

「とにかく、大阪梅田からは離れた方が良さそうやな」

 充は神戸三宮方面を目指すことにした。

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