Chapter8 大阪モノレールを封鎖せよ⁉︎

 9時。

「あー、来ちゃったよ。天六……」

 扉が開き、天神筋橋六丁目駅の地下ホームに降り立った孝之は嘆息した。「今度こそ、やと思ってんけどな……」

 とにかく折り返そうと思った。

 すぐに向かい側の淡路・北千里方面へ向かう電車が到着する二番乗り場に移動する。

 このゲームは、圧倒的に逃げ子の方が劣勢のルールとなっているため、すぐに確保できると最初はたかをくくっていた。

 しかし、相手が同時発車などを仕掛けてくると、想定した何倍も大変だということが分かった。

 まさに頭脳戦——。それもかなり熾烈しれついくさだ。それも、鉄道に大変精通している鉄オタ同士がやっているとなれば尚更だ。

「絶対捕まえたるんやからな」

 2番線に普通の北千里行きが到着する旨のアナウンスが、地下駅内に響いた。



孝之『ごめん🙇‍♂️ 淡路で確保できず……』

 西宮北口駅のシンボル、「カリヨンの鐘」の側に立っていた俊樹に孝之からの連絡が入った。

『淡路駅、降りてきた人多くてそれに紛れて逃げられた……』

 犬のキャラクターがハンカチを噛んでいるスタンプも送られてきた。

 労いのスタンプを送った後、

『今電話できる?』

 本日二度目の打ち合わせを始めることにした。

「孝之くん、お疲れ」

「あいつ淡路駅にいるみたい」

「マジで」

「うん。だって、準急の天下茶屋行き乗ってへんかったもん」

「あっ、乗ったんや」

「うん。乗った」

「えっと、ちなみになんやけど、今どこ?」

「天六」

 そして、俊樹は孝之から淡路駅で受けた被害の全容を聞かされた。

「なるほどね……ごめんっ、ブッ!」

「おい! 笑うな!」

「そんなことあるん⁉ ビックリやで」

「そういうことが起きたから、俺今、天神橋筋六丁目におんねん」

 友だちの深いため息がスマホの向こう側で聞こえた後、「次はどうする?」、孝之が質問してきた。

「さっきから、充くんからの乗車報告が入ってきてないからな。時間調整でもしてるんちゃうかなって、俺は読んでる」

「準急が淡路駅出てから10分経過してるからな。じゃあ、まだ淡路?」

「その可能性が高い」

「今から北千里行きの普通で折り返すけどオッケー?」

「そうやな。乗っても大丈夫やと思う」

 それにしても、充はこの淡路駅で降りてどこへ向かうつもりなんだろう──頭の中で路線図を思い浮かべる。

「淡路は阪急の千里線が出ている……あっ!」

 その時、俊樹は1つの可能性にたどり着いた。

「どうしたん?」

「これさ、もしかするとやけど、充くん、大阪モノレール乗るんちゃうかな?」

 大阪モノレールとは、大阪空港から門真市、彩都西までレールを伸ばす関西で唯一のモノレールである。営業距離は21.2キロ。これは2011年に中国のモノレール路線に越されるまで、世界一 長く、ギネス記録にもなっている。

 そんな大阪モノレールは、3つの駅で阪急電鉄と接続している。

 その中の一つ、山田駅は、千里線内にある。ここに俊樹は目をつけた。

「淡路でわざわざ降りたということは、北千里行きの電車に乗って、山田駅に向かうためちゃうかな」

「そうすると、一番早い淡路発の北千里行きは何時発がある?」

 LINE通話はそのままに俊樹は淡路駅の時刻表を検索した。

「今が9時4分やから、6分があるな」

「それって同時発車ある?」

「同時発車は……梅田行きに一本あるな」

「じゃあそれ乗る可能性が高いな」

「孝之くんは、もう次来るやつ乗って。で、南茨木向かって欲しい。僕も動くわ」

 京都本線の南茨木駅も大阪モノレールとの乗り換え駅だ。

 こうして電話を切った。

(バレバレなんだよ、充)

 俊樹は細く微笑んだ。

 ホームに降りて、大阪梅田行きの特急に乗車した。十三から宝塚本線に乗り換えて、3つ目のモノレール接続駅である蛍池ほたるがいけ駅を目指すのだ。

 大阪モノレールを封鎖する。

 これで逃走者、充は完全に袋の中のネズミ。

 

 しかし、9時6分を過ぎても充からの乗車報告はこなかった。

 

 ☆次回 Chapter9 隠された乗り換え駅

 

 

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