Chapter8 大阪モノレールを封鎖せよ⁉︎
9時。
「あー、来ちゃったよ。天六……」
扉が開き、天神筋橋六丁目駅の地下ホームに降り立った孝之は嘆息した。「今度こそ、やと思ってんけどな……」
とにかく折り返そうと思った。
すぐに向かい側の淡路・北千里方面へ向かう電車が到着する二番乗り場に移動する。
このゲームは、圧倒的に逃げ子の方が劣勢のルールとなっているため、すぐに確保できると最初はたかをくくっていた。
しかし、相手が同時発車などを仕掛けてくると、想定した何倍も大変だということが分かった。
まさに頭脳戦——。それもかなり
「絶対捕まえたるんやからな」
2番線に普通の北千里行きが到着する旨のアナウンスが、地下駅内に響いた。
※
孝之『ごめん🙇♂️ 淡路で確保できず……』
西宮北口駅のシンボル、「カリヨンの鐘」の側に立っていた俊樹に孝之からの連絡が入った。
『淡路駅、降りてきた人多くてそれに紛れて逃げられた……』
犬のキャラクターがハンカチを噛んでいるスタンプも送られてきた。
労いのスタンプを送った後、
『今電話できる?』
本日二度目の打ち合わせを始めることにした。
「孝之くん、お疲れ」
「あいつ淡路駅にいるみたい」
「マジで」
「うん。だって、準急の天下茶屋行き乗ってへんかったもん」
「あっ、乗ったんや」
「うん。乗った」
「えっと、ちなみになんやけど、今どこ?」
「天六」
そして、俊樹は孝之から淡路駅で受けた被害の全容を聞かされた。
「なるほどね……ごめんっ、ブッ!」
「おい! 笑うな!」
「そんなことあるん⁉ ビックリやで」
「そういうことが起きたから、俺今、天神橋筋六丁目におんねん」
友だちの深いため息がスマホの向こう側で聞こえた後、「次はどうする?」、孝之が質問してきた。
「さっきから、充くんからの乗車報告が入ってきてないからな。時間調整でもしてるんちゃうかなって、俺は読んでる」
「準急が淡路駅出てから10分経過してるからな。じゃあ、まだ淡路?」
「その可能性が高い」
「今から北千里行きの普通で折り返すけどオッケー?」
「そうやな。乗っても大丈夫やと思う」
それにしても、充はこの淡路駅で降りてどこへ向かうつもりなんだろう──頭の中で路線図を思い浮かべる。
「淡路は阪急の千里線が出ている……あっ!」
その時、俊樹は1つの可能性にたどり着いた。
「どうしたん?」
「これさ、もしかするとやけど、充くん、大阪モノレール乗るんちゃうかな?」
大阪モノレールとは、大阪空港から門真市、彩都西までレールを伸ばす関西で唯一のモノレールである。営業距離は21.2キロ。これは2011年に中国のモノレール路線に越されるまで、世界一 長く、ギネス記録にもなっている。
そんな大阪モノレールは、3つの駅で阪急電鉄と接続している。
その中の一つ、山田駅は、千里線内にある。ここに俊樹は目をつけた。
「淡路でわざわざ降りたということは、北千里行きの電車に乗って、山田駅に向かうためちゃうかな」
「そうすると、一番早い淡路発の北千里行きは何時発がある?」
LINE通話はそのままに俊樹は淡路駅の時刻表を検索した。
「今が9時4分やから、6分があるな」
「それって同時発車ある?」
「同時発車は……梅田行きに一本あるな」
「じゃあそれ乗る可能性が高いな」
「孝之くんは、もう次来るやつ乗って。で、南茨木向かって欲しい。僕も動くわ」
京都本線の南茨木駅も大阪モノレールとの乗り換え駅だ。
こうして電話を切った。
(バレバレなんだよ、充)
俊樹は細く微笑んだ。
ホームに降りて、大阪梅田行きの特急に乗車した。十三から宝塚本線に乗り換えて、3つ目のモノレール接続駅である
大阪モノレールを封鎖する。
これで逃走者、充は完全に袋の中のネズミ。
しかし、9時6分を過ぎても充からの乗車報告はこなかった。
☆次回 Chapter9 隠された乗り換え駅
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