Chapter4 充のミス

「この電車とこの電車が……」

 西宮北口駅構内にある時刻表で同時刻に発車する列車を探していた。

 この後、充の計画では再び大阪梅田方面へと逃げることになっている。

 高速神戸方面だと、1dayパスは西代駅から先は利用可能圏外となるからだ。

 線路自体はその先、山陽姫路さんようひめじ山陽網干さんようあぼし方面へと伸びているが、管轄は山陽電鉄さんようでんてつとなるため、他社路線扱いとなる。

 さらに、仮に姫路方面に逃走すると、逃走手段は、山陽電鉄とJRの二つだけとなり、鬼チームに行動を把握されやすく、包囲されるリスクが非常に高くなる。

 このようなことを考えた結果、様々な方面に逃げることができる梅田方面に向かうことが最善だと充は読んだのだ。

 だが、彼はこの時点で、を犯していた。

 今津線宝塚行きと同時発車する大阪梅田行きの特急便を見つけた。

「よし! あいつらから逃げんのほんま───えっ、ちょっと待って」

 充は、ようやく、自分自身が犯した誤算の一つに気付いたようだった。



 遡ること10分前───。

「阪神行くわ」

「オッケー分かった」

 スマホをズボンのポケットに入れ、時空の広場を離れて二人は改札口へと向けて歩き始めた。

「今からさ、阪神乗り場行くやん」

 孝之が言った。

「うん」

「充さ、同時発車やったやん。わざわざ始めからそれを使ってきたってことはさ、あいつ何か作戦でも立ててるんちゃう?」

 孝之の言葉に俊樹は、「あー」と頷いた。

「なんか、彼、やってそうよな」

「阪神と阪急、どっちに乗ったか分からんしさ、二手に別れよう」

「じゃあ、俺が阪神行くから、孝之は阪急行って」



 鬼チームは二人同時に動くことも可能であり、なおかつ単独行動も許されている。

 充は、この作戦をを前提に考えてしまっていた。

「ヤバい。どうしよ、待って」

 充は頭の中が白く塗りつぶされていくのを感じた。

 さらに、今津駅から阪神に乗り換えたと思わせるという前提も、グループラインで乗車報告した最初の便が今津発の西宮北口行きだったため、鬼の二人からすれば、

「充君はどういう経路で今津駅に行ったか分からないけれど、とりあえずそこから電車に乗ったらしい」

という事実しか分かっていないので、もはやこの作戦は最初から破綻していたのだ。

 充の頭の中で、バッハ作曲のあの名曲が再生される。(完全にやらかしよった by 作者)

 時刻表の前で頭を抱える充。

「これはやってしまった。クソォ……」

 とりあえず、慌てつつも、逃げなければいけない。

 充は大阪梅田方面へ向かう電車が発車するホームへと速歩きで向かった。

 8時18分の通勤特急の大阪梅田行き。

「ひとまずこれで十三へ」

 周りをキョロキョロと何度も何度も見回して、早くなる脈拍を必死に抑えながら、まだまだ混雑する車内に身を置いた。


 ☆次回 Chapter5 作戦会議

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