Chapter3 作戦第一弾
「よし、8時になった」
スマホのロック画面の時計が「8:00」と表記された。
ゲームが開始された。
充が出発してから30分。
二人は時空の広場から動かず、ゲームが始まる時刻まで待機していた。
まずは、充からの乗車報告が届くのを待つ──2人で優雅にホットカフェオレを飲みながら。(ところでお前たち、それいつ買った? by 作者)
8時6分。
グループラインに最初の通知が入った。
充『8:06 今津駅 1号車』
「充くん、今津にいてんねんな」
ラインのトーク画面を目にして俊樹が喋った。
「今津駅やから……阪神か阪急今津線やな」
今津駅は、兵庫県西宮市にある駅で、ここでは阪神本線と阪急今津線(今津南線)が接続している。
「今調べてんけどさ、今津駅を8時6分に出発する電車なんやけど、(阪急)今津線が一本と、阪神に区間特急の大阪梅田行きがあるわ」
ネット検索をして調べた今津駅の時刻表を見て孝之が俊樹に告げた。
「早速、同時発車使ってきたか」
──同時発車。
行き先などが違う列車が同じ駅を同時刻に発車する風景のことである。
今回、逃走者が列車に乗車し移動した際に報告するのは、「乗車した列車の発車時刻」「出発した駅の名前」「乗車した車両の号数」の三点。
「どこ行きの列車」かは表記しなくて良い。それは鬼方が予想するのだ。
同時刻に同じ駅を発車する列車と被せることで自分が乗っている列車を特定されにくくすることができる。
「それな」
「うーん……どっちやろ?」
少し考えた後、俊樹は言った。
「阪神行くわ」
※
8時9分。
「さぁ、着いた。——西宮北口駅到着」
充が降り立ったのは、阪急を代表するターミナル駅の一つ西宮北口駅だった。
充は梅田から乗った通勤特急を西宮北口駅で降車し、そこから今津線に乗り換え、今津駅へと向かった。
今津駅に到着後、すぐに阪神に乗り換えようとした。
しかし、阪神本線は他の路線や他社の鉄道路線との接続駅が少ない。
阪神線内で追われることになれば、逃げる側としては、逃げ道が少なく圧倒的不利な状況に陥ってしまう。
そしてまもなく、鬼が行動を開始する時刻が近付いていた。
位置情報を公開しなけばならない。
そのことに気が付いた充は、この今自分が置かれている状況を利用して、とある策を考えた。
充の目論見は、こうだ。
鬼方は、今津駅から阪神に乗り換えたと予想し阪神に乗車。その間に阪急を使って逃走を図ろうと言うもの。
「うまいことあいつらが俺の策にハマってくれてるなら、これから少しは安全やな」
少し吐息をついて、広い駅構内を歩く。
充の作戦通りだと、鬼方は今頃阪神電車に揺られているため、今すぐに捕まることはない。
この駅で時刻表などを見て、ゆっくりと次の作戦を練ろうとしている。
(結構余裕やな)
手にした安息のひと時。充は逃走開始した時に感じていた緊張は既に消えつつあった。
しかし、充はここで大きな勘違いを2つも犯していた──。
☆次回 Chapter4 充のミス
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