第一章 開幕。京阪神で鬼ごっこ

Chapter1 開幕の朝

 当日朝。

 午前7時20分。


「おはようございます」

「いや〜おはよう」

「あーネムッ!」

 3人の姿はJR大阪駅の時空ときの広場にあった。

 夏休み期間とは言え、今日は平日。

 下にある在来線ホームには、スーツ姿の人々がずらりと並んで、電車の到着を待っている姿が見える。

 待ち合わせ場所を前日に話し合った。

 全員住んでいる所がバラバラなので、分かりやすい場所がいい、それならシンプルに時空の広場がいいんじゃない、と提案したのは俊樹だった。

 それに他2人も賛成したため、決戦の幕開けとなる地点はここになった。

 俊樹がバラエティー番組の司会者のような口調で言った。

「いよいよ、俺たちの絶対に負けられない戦いが幕を開けます。最初の逃走者は、充。どう? 意気込みは?」

「今から3時間逃げ切ればいい訳やろ。しかも、俺ら全員、鉄ヲタでしかも関西の鉄道は熟知してるって言っても、まぁこっちにはね、みんなが思い付かないような秘策を沢山用意してますからね。逃げ切りますよ!」

「そうはさせへん」

 と、孝之は顔に笑みを浮かべた。「ゲーム開始から1時間で捕まえたるんやからな!」

 それに俊樹が続く。「あぁ。絶対に捕まえる」

「俊樹、偉い自信満々やんけ」

「お前とは仲良くなってからもう結構経つからな。ある程度の予測なんて朝飯前や!」

「そうか。まぁ、いつもはお前らには見せてへん博学なところ見せつけたるからな」

 まもなく充の逃走開始時刻だ。

 3人はそれぞれ、互いの健闘を祈るために握手をした。


 そして、


 午前7時30分──。


「じゃあ、逃げさせてもらいますわ!」

 時間が来た。充は歩き出し、少しした所で振り返り、右手を挙げて如何にも大阪のおじさんっぽい口調で言った。「ほな!」

「まぁ、でもすぐ再会するわ」

 と、俊樹が強気に言う。

「ほんまにそれな」

「まぁ、3時間、絶対逃げ切るんで。いや〜、ほんま、ごめんなさいね〜」

 振り返った充はウザい表情で、「ごめんね♡」ポーズを繰り返す。

「ほんまウザい笑」

「早よ逃げろや」

「30分待機やからな! 追いかけてくんなよ! 30分——」

「ほんま早よ行けや」

 逃走者vs鬼チームの記念すべき最初の対決は煽り合いのようだ。

「では! さいなら!笑」


 午前7時30分。充、逃走開始───。

 


 ☆次回 Chapter2 充、逃走開始。

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